ドキュメンタリー/ドナテッラ・バリーヴォ監督作品

[スタッフ]
監督・構成・編集:ドナテッラ・バリーヴォ/製作主任:フランコ・テリッツ/撮影:エウジェニオ・ベンティヴォーリオ、グァルティエロ・マノッツィ、ロベルト・メツディ、パオロ・口ザート、ロベルト・サルミ/編集助手:ファビオ・パラチーディ/録音:アリスティーテ・ビリオッキ、セルジョ・サンゲッリーニ、ロッラード・ヴォルピチェッリ

[キャスト]
インタビュー:アンドレイ・タルコフスキー、トニーノ・グエッラ、オレーグ・ヤンコフスキー、エルランド・ヨセフソン、ドミツィアナ・ジョルダーノ、デリア・ボッカルド、ジュゼッペ・ランチ、アンドレア・クリザンティ

1984年/チアク・スタジオ(イタリア)製作/35mm/ドキュメンタリー/スタンダード/カラー/98分
配給:ケイブルホーグ/日本公開1989年

[解説]
1983年、アンドレイ・タルコフスキーは初めて西側で映画を撮るため、ソ連を離れイタリアへ渡った。中部トスカーナ地方を旅するロシアの詩人を通し、二つの文化の狭間で苦悩し決断する人間の姿を深遠な映像美の中に描き上げた。──『ノスタルジア』の誕生である。

本作は、イタリアの女流ドキュメンタリー作家ドナテッラ・バリーヴォが『ノスタルジア』誕生の軌跡を追いつつ捉えた、タルコフスキーの作家・人間像である。これまでにも映画作家や俳優を題材にしたドキュメンタリ一を多くつくっているバリーヴォは、イタリアにおけるタルコフスキーの足跡をたどり本作を含め二作の記録映画に収めた。他の二作でインタビュー、レクチャーを通しタルコフスキーの人生観、映像論にアプローチしてきたパリーヴォにとって本作は、タルコフスキ一の全体像を捉える絶好の機会であったといえよう。

「私の狙いは、“ノスタルジア”の詩に満たされたテーマを追い人間としての、詩人としてのタルコフスキーを明らかにすることにあった。」(D・バリーヴォ)

撮影風景と完成した本編での映像、そしてタルコフスキーを始めとするスタッフ・キャストのインタビュー。こうした構成の中、イメージした構図の完全性を常に深く追い求めるタルコフスキーの作家性が浮き彫りにされていく。

平原には一面スモークが焚かれ、自らカメラを覗き、風向き、照明などの細かい指示をスタッフに与えるタルコフスキー。続いて挿入される本編での映像が、殺風景なトスカーナの平原を、“聖なる教会へと導く小路”に変えていくタルコフスキー映画の本質を映し出す。“水・炎・廃墟”といった独自の映像言語を繰り、造り出されていくタルコフスキーの空間──バーニョ・ヴィニョーニの温泉の水が撮影のため抜かれ、ローマのカンピトリオ広場にはマルクス・アウレリウス像が復元され燃やされる。ラストの劇的なクライマックス・シーンでは、廃墟の聖堂サン・ガルガーノの内部に樹が植えられ、家が建てられる事によってロシアの風景が再現されている。こうして『ノスタルジア』に現われる“奇跡”とでもいうべき風景の数々の裏には、タルコフスキ一の持つ、作家としての強い信念とそれを受けとめるスタッフの努力と信頼がある。

「ロケ地に来てみて、私は即座にタルコフスキーが何を望み、何を表現したいかを理解できたように思う」。美街監督のクリザンティは、インタビューの中でこう語っている。

セットを追いながら、カメラはこうした『ノスタルジア』を支えるスタッフ・キャストの表情を捉える。共同脚本家トニーノ・グエッラ、ゴルチャーコフ役のヤンコフスキー、エウジェニア役のジョルダーノ、難役ドメニコに取り組んだエルランド・ヨセフソン。インタビューを通し、厳しい演技・演出を要求され、とまどいながらも次第にタルコフスキーの意図を理解していく様子が語られている。

こうして『ノスタルジア』は編集作業を経て完成する。本作にはその段階で切り落とされたシーン(ジョルダーノが天使に扮するシーン)も収録されている。

タルコフスキーの精神が綴り上げた一篇の映画詩『ノスタルジア』。本作において、手に持つポラロイドを見ながら祖国を想い、誰もいないセットの中一人物思いに沈むタルコフスキーの横顔に触れるとき、そこには『ノスタルジア』の根底にある“孤独”というテーマを紡佛させる、タルコフスキーの素顔があるのだ。


企画概要上映作品タルコフスキー年譜武満徹インタビュータルコフスキー論関連情報
監督作品:
殺し屋ローラーとバイオリン僕の村は戦場だったアンドレイ・ルブリョフ惑星ソラリスストーカーノスタルジアサクリファイス
関連ドキュメンタリー作品:in 「ノスタルジア」
in 「サクリファイス」


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