マフマルバフ・フィルム・ハウス


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サラーム・シネマ』でオーディションを受けていた多数の俳優志望者の中に続く2作品『ギャベ』『パンと植木鉢』の主役を射止めたふたりが登場する。

@『ギャベ』の主役/シャガイエグ・ジョタト嬢 (22分頃に登場)
集団面接の左はじにいる彼女だが『ギャベ』で聞かれた特徴ある声ですぐに分かる。しかし何か変な感じ。志望動機は監督だけにしか言えないと突っ張る。興味を覚えたマフマルバフは彼女を呼び寄せ、コソコソ話を始める。そこで彼女が語るのは、恋人のこと。結婚を反対され、ショックで国を出た恋人に会いたい一心でこのオーディションを受けたと熱く語るのだ。

「監督の作品ならカンヌ映画祭へ出品される可能性があります。それで運試しをする気になりました。映画に出ればビザを取れると思います。どうしてもこの国を出たい」

このジョタト嬢との出逢いが霊感を生み、マフマルバフは予定していた『パンと植木鉢』をとばして『ギャベ』の製作に着手することになる。

ちなみに『ギャベ』は(ジョタト嬢の思惑通り)'96年のカンヌ映画祭“ある視点”部門に出品された。果たして彼女はビザを取得できたのだろうか? → 『サラーム・シネマ』公開記念特別上映!

A『パンと植木鉢』の主役/ミルハディ・タイエビ氏 (40分頃に登場)
監督「どんな役が向いてると思うかい?」

タイエビ「悪役だと思います」

監「なぜ?」

タ「この顔だちを見ればお分かりになるでしょう」

監「君は悪人か?」

タ「いいえ」

監「なぜ悪役ばかりを?」

タ「監督の決定した配役に従った結果です」

監「君自身の希望はどっち?」

タ「悪役です」

監「なぜ?」

タ「演じて楽しいので」

監「君が監督なら、私にどんな役を当てる?」

タ「(しばしの逡巡の後)悪役ですね」

監督、微笑む。

タイエビ氏の皮ジャンに柄シャツの恰好は『パンと植木鉢』と全く同じ(要するに自前の衣装だろう)。マフマルバフは『パンと植木鉢』でも再び彼に悪役談義をさせた。そうさせずにはいられないインパクトのある顔立ち。

かつてフェリーニのスタッフは、街でインパクトのある顔立ちの人間を見つけるたびに「フェリーニの映画に出てみないか」と声を掛けたという伝説があるが、同様にマフマルバフは彼を発見したことで『パンと植木鉢』の成功を確信したのではなかろうか。 → 『サラーム・シネマ』公開記念特別上映!

また、冒頭の群衆に押しつぶされそうな鉄扉を必死に押さえているシーンが印象的な撮影助手ベーザド・ドラニは、後にアッバス・キアロスタミの『風が吹くまま』(99)に主演することになる。