2011年9月30日 |     アーカイブ   No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6

毎週金曜日更新

③ 監督インタビュー(その2)

今回、一般公開に先駆けて、監督のフォルカー・ザッテルが来日します。ザッテル監督は1970年生まれ、「アンダー・コントロール」が長編ドキュメンタリー初監督作となります。下記のインタビューは、今年2月のベルリン映画祭後、ドイツのシュピーゲル誌のインタビューに答えたものです。監督がこの映画を作り始めたのは3年前の2008年。なぜ、その時期に原子力発電所の映画を作ろうとしたのでしょうか?


(先週からの続き)
Q: 原発を描いた映画としては珍しく原発反対論者へのインタビューが無いですね。
A: 映画の目的が違うからだよ。なぜなら、彼らにインタビューしても、原発を毎日動かすことがどういうことかは全く分からない。
ただ、反対論者の人々はテクノロジーの進歩にとっては重要な存在だと思っている。彼らもまた間接的に原発の制御に関わっているんだよ。
彼らの反対がなければ、原発は決して進歩していなかっただろう。特に70年代の古い技術と比べたらね。進歩は原発の労働者たちによってのみもたらされるわけではないんだ。

Q: この映画を作る上で、一番大変だったのはどんなことですか。

A: 一年に一度、これらの原発は閉鎖されて保守点検を受ける。
だからそのタイミングで撮影を許可してもらった。原発内には高濃度の放射性物質が存在する。
被爆の危険性はあるけれど、撮影したかったから完全防護服を着込む必要があった。手袋とか、そういうものも全部2重にして。何にも触っちゃいけないんだ。撮影用具一式も下に降ろせない。だから全部自分たちで運ばなくちゃいけない。それに本当に暑くて空気が悪いんだ。
また、燃料棒が交換されるという時に、研究炉(研究用の原子炉)を撮影することができた。原子炉の上から撮影をするから、さすがに怖かった。実際、もしこの作品にかける情熱がなかったら、そんなことできなかったよ。

観客の反応

Q: この作品に対して、これまでにどんな反応がありましたか?

A: 原発反対論者にとっては、原子力がすでに賞味期限の切れた技術だということを明らかにした作品と捉えられているみたいだね。それはぼくが取材を通して抱いた印象でもあるよ。このテクノロジーは恐竜みたいに大きくて鈍い。もはや現代的なものではなくあまり未来のないものだとね。

Q: この作品を撮って、世界がいま抱えている原子力と核廃棄物の問題に対して、なにか良い解決案を思いつきましたか。

A: ぼくたちはこの先、とても大きな課題を抱えているんだ。原子力発電所の解体は、国内でも国外でも、何十億ユーロもかかる大きな試練だ。さらに、放射性廃棄物をどうするかという避けて通れない問題がある。正しい解決法を見つけられるように、社会全体で適切な議論を重ねなくてはならない。
たとえ、事故防止と安全性が最大限に計られたとしても、どんなときだってリスクは存在する。そして、このテーマに関しては、一律に賛成か反対かで決めてしまうのを止めるのが正しい姿勢だよ。もっと重要なことは、慎重な評価を下すことだ。一時の感情に基づいて判断すべきことじゃない。

Q: 最後にお聞きします。監督は、このドキュメンタリーを作り、原発の内部がどうなっているかを見て来たわけですが、監督自身は映画に登場するような、近所に原発があるような町に住みたいと思いますか?

A: 原発のすぐ近くには住みたくないね。でも、実は子供のころ、原発からたった7キロしか離れていないところで育ったんだ。当時は、まだ原発の冷却塔が希望の象徴のように捉えられていた雰囲気が町中にあった。そのときのことは、今でもはっきりと覚えているよ。

クイズ・ギャラリー

先週のクイズギャラリーの答え

原子炉内にあった配管を切断しているところ。ドイツではすでに32機の原発のうち、15機が閉鎖され解体が進められているが、基本的に一度運転をした原子力発電所を解体するのは困難である。
その大きな理由は、解体に伴って生まれる大量の放射性廃棄物のせいだ。
特に長年運転した原子炉は、建物自体が放射能を帯びて「放射化」してしまっており、たとえ表面の汚染を取り除いたとしても、放射能を減らすことは難しい。
よって、まるでロボットのような防護服を着て作業する必要がある。原発の問題は、もともと制御する術のない放射性廃棄物をどうするか対策を決めず、いつか新しい技術で解決できるだろうと見切り発車してしまったことによって生まれていることも事実だ。


毎週、本作の中の画像をクイズのように紹介します

これは原発のどの部分でしょう?

※解答は次週更新時に掲載します

監督:フォルカー・ザッテル 2011年/ドイツ/98分/35mm/カラー/シネマスコープ/ドイツ語/ドルビーデジタル 原題:Unter Kontrolle 後援:ドイツ文化センター 宣伝:Playtime 配給:ダゲレオ出版 イメージフォーラム・フィルム・シリーズ