2011年9月30日 |     アーカイブ   No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6

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②監督インタビュー(その1)

今回、一般公開に先駆けて、監督のフォルカー・ザッテルが来日します。ザッテル監督は1970年生まれ、「アンダー・コントロール」が長編ドキュメンタリー初監督作となります。下記のインタビューは、今年2月のベルリン映画祭後、ドイツのシュピーゲル誌のインタビューに答えたものです。監督がこの映画を作り始めたのは3年前の2008年。なぜ、その時期に原子力発電所の映画を作ろうとしたのでしょうか?


フォルカー・ザッテル監督:
1970年にマンハイム近郊の小都市に生まれる。1993年から1999年に、バーデン=ヴュルテンベルク・フィルムアカデミーで劇映画とドキュメンタリー映画の監督とカメラを専攻。制作した多様な作品群は映画祭や展覧会、テレビなどで上映されている。
また映画の制作活動と並んで、オラフ・ニコライ、ダニエル・クラインなどのアーティスト、ティム・エルツァーや作家のマリオ・メントルップらとのコラボレーションも行っている。『アンダー・コントロール』は共同監督作品を除けば、初の長編ドキュメンタリー作品となる。

Q: まず、この映画を作った理由を聞かせてください。

A: ドイツで原発は、とても感情的でイデオロギー的な議論がされてきたんだ。だから、多くの人にとって原発は、ヒステリックなテーマだと思われているよ。人々は「原発はいつ爆発するか分からないし、そのせいで子供たちは癌にかかるんじゃないか?」と疑心暗鬼に襲われている。ぼくらが撮影を始めたときも、「やめておけ」とか「被爆してしまう」と忠告されたよ。たぶん、みんな不安で一杯なんだろう。実際、チェルノブイリの事故だって、わずか4半世紀前のことにすぎないしね。でも、そのために冷静に議論するのが難しくなっているんだ。原発は「悪魔のような存在」だと思われてきた。だから、事実を直視して明快な議論ができるような作品を作りたかったんだ。そうすれば、僕らはもっと建設的に議論することができるだろう?

Q: あなたの作品を見て、とても冷静で客観的だと感じました。ただ、3年間もドイツの原発を取材し撮影すれば、結果的に自分の立場を決めざるを得ないのでは?

A: もちろん自分の意見はあるよ。でも、今回は自分の意見を声高に訴えて世論を変えようとする作品ではなく、冷静な議論の土台になる作品を目指したんだ。もし世論にアピールするなら、もっと大衆にウケそうな映画を作らないとね。たとえばマイケル・ムーアみたいな。映画を見てくれた人の中には、やっぱり科学は信じられないと思った人もいる。でも、原発のエンジニアや労働者が見たら、まったく違った受け取り方をするはずだ。ぼくはこの映画が多様な意見を生む作品になることを信じている。たとえば、ある場面で低レベル放射性廃棄物の貯蔵庫が描かれる。そこでは、安全のために多くの規制があることが説明される。原子力を扱う上でのリスクや困難をはっきりと描いた場面だ。でも、ぼくは一方で原発のコントロール・ルーム(操作室)も撮影した。そこは眩いばかりの技術が結集した場所だ。つまり、ぼくが見せたいのは、そうした差異を感じる部分なんだよ。物事の様々な側面を知ってこそ冷静な議論ができる。だから、ぼくはあえて原子力が生まれた頃のユートピア的なイメージも伝えたいと思った。美化するとかそういうのじゃなくね。でも、実際カメラを向けている原発には解体されているものもあるので、そういうユートピアがすでに失われてしまっていることも分かるようになっているよ。

Q: 原発で映画を撮るためには、事前に多くの許可を取る必要があると思います。しかし、そのためにドキュメンタリーからリアリティが失われると思うことはありませんか?

A: ドキュメンタリー制作者としての課題の一つだね。ただ、今回は施設をじっくりと見る時間があったから、リアリティを欠いているとは思わない。そりゃ、もちろん全てを撮影する許可はもらえないさ。いろいろな規制があるからね。ぼくの場合はこう言われた。「撮影して欲しくないところもあります。でも、それはスキャンダラスだからということではなく、安全性の問題やテロ対策のためなんです」とね。でも、どこだって撮影出来ない場所はあるんじゃないかな。例えば…フォルクスワーゲンだって、工場の中で見せたくない所があるはずだよ。(続く)

クイズ・ギャラリー

毎週、本作の中の画像をクイズのように紹介します

これは何をしているところでしょうか?

※今回は選択肢なしです。解答は次週に掲載します。


先週のクイズギャラリーの答え ...............

監督:フォルカー・ザッテル 2011年/ドイツ/98分/35mm/カラー/シネマスコープ/ドイツ語/ドルビーデジタル 原題:Unter Kontrolle 後援:ドイツ文化センター 宣伝:Playtime 配給:ダゲレオ出版 イメージフォーラム・フィルム・シリーズ