イントロダクション

天安門事件を背景に燃え上がる愛と性 そして終わらないあの日の恋

1987年、中国東北地方から北京の大学に入学した美しい娘ユー・ホン。そこで彼女を待っていたのは運命の恋人チョウ・ウェイとの出会いだった。折しも学生たちの間には自由と民主化を求める嵐が吹き荒れていた。そんな熱気のなかで狂おしく愛し合い、そして激しくぶつかり合うふたり。しかし1989年6月の天安門事件を境に、恋人たちは離ればなれになってしまう。彼はベルリンへ脱出。彼女は国内を流浪していくつかの仕事や新しい恋人を持つ。月日が流れても心の中ではお互いを忘れることができないユー・ホンとチョウ・ウェイ。果たしてふたりの人生は再び交わることがあるのだろうか・・・すれ違い、遠く離れ、また近づいていく恋人たちの姿を、中国社会が激しく揺れ動いた80年代末から2000年代初頭を背景に描いたのが、この『天安門、恋人たち』である。

カンヌ震撼、中国国内上映禁止! タブーに挑む意欲作ついに登場

2006年度、カンヌ国際映画祭。

『天安門、恋人たち』は上映されると、すぐさま大きな物議を醸した。その理由のひとつは、中国国内では未だに公にその話題を取り上げることすらできない天安門事件が作中で扱われているためである。いわば絶対的なタブーである事件を、しかも参加し制圧された学生たちの視点から描いたのは、当然ながら中国映画史上初の挑戦となった。さらに本作には、女優・俳優たちが裸を大胆に露出した、中国映画としてはかつてないほどの過激なセックスシーンが含まれている。カンヌでの上映の後、中国政府の許可を得ないままに国際映画祭に出品された本作に対して、政府当局から「技術的に問題がある」という理由で中国国内での上映禁止と監督の5年間の表現活動禁止という処分が言い渡された。著しい経済成長や北京オリンピックの開催で世界中の注目を集める中国。その激動の現代史が、ある一組の男女のせつない愛の軌跡と重なる。

実力派監督ロウ・イエがリアルに描く 普遍的な青春と世代特有の苦悩

監督は、チャン・ユアン(張元)やワン・シャオシュアイ(王小帥)らと共に中国映画第6世代の旗手と言われるロウ・イエ(婁燁/『ふたりの人魚』『パープル・バタフライ』)。自らも学生として天安門事件に参加した経験を持つ監督は、自分たちの体験をありのままに表現すべく、事件直後からこの映画の構想を暖め続けていた。上記したような中国政府当局の敏感な反応に対しては「自分の映画で政治を扱ったつもりはない」と話す監督。本作では、挫折を味わいそれを昇華するのにその後の人生の多くの時間を費やしたこの世代特有の経験をリアリティたっぷりに描き出す。主演女優ハオ・レイは、共演のグォ・シャオドン(『故郷の香り』)とともに中国映画史上初となった全裸のセックスシーンに果敢に挑戦。さらに物語の後半では、心の中に青春の残り火をくすぶらせながらも新しい時代を生きようともがく主人公ユー・ホンを気迫をもって演じきった。ロウ・イエ監督は、「本作で描いたのは、急激な社会変化の中で見過ごされている、人々の心の中の混乱」であると語っているが、ユー・ホンの複雑な心境を見事に表したその演技は、国際的にも高く評価されている。

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