華やかな「忠臣蔵」の裏の愛の物語

赤穂浪人・源五兵衛は、仇討に加わろうと、敵の目を欺くため酒と女にうつつを抜かす。だが、美しい芸者・小万への執心にはそれ以上のものがあり、小万も源五兵衛を慕い腕に愛の誓いの彫りものが。気が気ではない源五兵衛の忠僕・八右衛門は、なけなしの仇討闘争資金百両を主人の前に差し出すも、小万の使い三五郎が現れ、愛しい小万が他人に百両で身請けされるという。仇討のため一度は小万との縁を切ろうとした源五兵衛だが、愛を選ぶか、武士の道を選ぶか、心は千々に乱れる。結局百両を投げ出して小万を選んだが……。さあ、ここからが地獄絵図。愛を選び、絶望の淵に落とされた源五兵衛の凄絶な復讐劇が始まる。

 

中村賀津雄、三条泰子、唐十郎の熱演による不条理残酷劇

主人公の源五郎には東映時代劇のベテラン・中村賀津雄(嘉葎雄)を起用、エロスと憎悪のみなぎる凄まじい演技を見せる。相手役小万には民芸の新人・三条泰子が義理と人情のしがらみに苦しむ女の苦しみを熱演、美しい死に顔でも話題を呼んだ。その二人の間を取り持つ三五郎を演じ、異彩を放つのが当時、状況劇場を主宰していた唐十郎。不条理に翻弄され三人を中心にスクリーンは血の海となる。

 

スタイリッシュな時代劇の傑作

日本の古典、鶴屋南北の狂言「盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)」と、それを改作して青年座が上演した石沢秀二の台本をもとに、松本俊夫が脚本を書いた異色の時代劇。全編夜の闇、しかも登場人物12人中、9人が死に果てるという凄惨な怨念劇を朝倉摂の舞台劇を思わせる大胆なセット、名キャメラマン、鈴木達夫による黒を基調にハイコントラストの美しいモノクロ画面で描き上げた。

 

ポスト昭和元禄

この映画が初公開されたのは、70年安保と三島由紀夫の自決のほとぼりも冷めぬ1971年2月。松本俊夫は新聞のインタビューにこたえて、製作意図を南北の生きた文化文政時代と重ねてこう語っている。「きらびやかな元禄時代のあと世相は濃い頽廃におおわれていた。一方、現代も“昭和元禄”の時代が過去のものになった。文化文政を“ポスト元禄”として把握するように現代も“ポスト昭和元禄”といえるのではないか」。真っ赤な太陽が没して繰り広げられるこの闇の絵巻が、およそワン・ジェネレーション(30年)後の“ポスト・バブル”の時代にリバイバルされるのも何かの因縁なのかも知れない。

 


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