DICTIONARY
「薔薇の葬列」が良くわかる23のキーワード

『オイディプス王』:この映画の元となったギリシャ神話。そうとは知らずに父を殺害、自分の母と結婚して王になった男を巡る、テーバイ王家の悲劇。フロイトの言うエディプス・コンプレックス(いわゆるマザコン)の語源。

ゲイボーイ:ゲイバーなどで男でありながら女として振る舞うことを職業にしていた人達。この映画では出演者に本物のゲイボーイを公募、6人が大きな役を演じた。ゲイボーイを演じるピーターは、むしろ元祖ビジュアル系としての魅力を放っている。

ゴーゴー・ダンス:90年代で言えばクラブ、80年代ディスコ、そのルーツが60年代後半のゴーゴー。どんな踊りかは映画でピーターが見せてくれます。

シャルル・ボードレール(1821-67):20世紀文学に最も大きな影響を与えた悪魔的な耽美派詩人。映画の冒頭の言葉はその代表作『悪の華』の引用。

新宿:「60年代は新宿が街として最も輝いていた時代」(松本監督)。路上ではベトナム反戦の学生デモと機動隊がぶつかり合い、西口地下広場にはフォーク・ゲリラが出没、バーではジャズが流れ、煙草の煙もうもうの中、学生や文化人が口角泡飛ばして、映画や政治を語りあう。西口の開店間も無い京王、小田急のデパートも映画に登場。

新宿2丁目:新宿のゲイ・タウンは元々は三丁目だった。売春禁止法以前いわゆる“赤線”だった二丁目にその中心が移り始めたのが、ちょうどこの映画の時代。

チェ・ゲバラ(1928-67):エディ(ピーター)の友人のフーテン「ゲバラ」の名の由来。ベレー型の戦闘帽にアゴ髭の精悍なキユーバ革命の悲劇のヒーロー。当時の若者の多くが彼にあこがれ、そのファッションをまねた。最近ミュージシャンのTシャツの図柄などで再びブレイク。

ハプニング:寺山修司などの駅前や路上、住宅などなどで繰り広げられたゲリラ的演劇が大流行。本編にはそんな過激なグループのひとつ、ゼロ次元が出演。

薔薇:ゲイ雑誌の名門「薔薇族」は、この映画にちなんだ名前だそうです。

原宿:50年代に駅前に高級マンション“セントラルアパート”が建ち、東京の最もシャレた街のひとつに。映画のクライマックスではここでロケされた映像が圧巻。

ピエル・パオロ・パゾリーニ(1922-75):スキャンダラスな衝撃で世界の映画を揺さぶり続けたゲイ映画監督は、67年『アポロンの地獄』を発表、『薔薇─』と共に奇しくも日本、イタリアで「オイディプス王」の映画化競作となる。本編にも『アポロンの地獄』のポスターが登場。

ピーター:六本木のゴーゴー・クラブで踊る姿がピーターパンのよう、ということからこのニックネームに。少なくとも当時は池畑慎之介、というイメージではない。ピーターを見いだしたのは、美術を担当した朝倉摂さんと言われるが、抜擢したのは百人以上のゲイボーイと面接、ゲイバーの飲み代だけでも十数万円を費やしていた松本監督。

ビートルズ:60年代といえばやっぱりビートルズ。66年の来日では武道館が大フィーバー。この映画は68年の彼らの解散のショックの中で撮られた作品。

フーテン:学生運動ほどクソマジメでない若者たちの反抗のひとつの形。長髪、ヒゲ、ぼろぼろのGパン、Tシャツ、汚いスニーカー(場合によってはゲタ)、手作りの装飾品などの定番のスタイルで脱力していた。マリファナなどを喫っているとカッコよいと思われていた(もちろん非合法)。ただブラブラしていただけじゃない…と思うけど。

べトナム反戦:旧フランス植民地の独立が、東西対立の代理戦争に発展。60年代後半には事実上アメリカの戦争となって、北ベトナムの空爆も始まった。この戦争への反発が、チェ・ゲバラや毛沢東の文化大革命への共感と共に、若者たちの反逆精神と結び付いて世界中に広がり、学生運動の盛り上がりに。

ホモセクシャル:この映画、ピーターの存在によって世の中の価値観は大きく揺らぎ変わることとなった。公開時の新聞には「恐るべきゲイボーイ」「美少女ピーター」などの見出しが踊り、衝撃の大きさと混乱ぶりが伝わってくる。ちなみに当時、東京でのゲイ人口は60万人とされる。

ドラッグ:戦後日本のドラッグといえば覚醒剤(ヒロポン)だが、60年代のドラッグ・カルチャーを生んだのは、マリファナ、ハイミナール(睡眠薬)、アンフェタミン、ハシシなど。

三島由紀夫(1925-70):51年に日本ゲイ文学の古典『禁色』を発表。マッチョな筋肉美に理想を求めた繊細な鬼才は、澁澤龍彦編集の雑誌「血と薔薇」で写真のモデルにも。60年代に急速に右翼化。『薔薇─』公開の翌年、切腹。

モノセックス:パンタロン、長髪の流行やピーターの大ブレイクのキーワードとして語られたのがコレ。ピーターも「女以上の色っぽさ」というホメ言葉に、むしろ「男でも女でもどっちでもいい」「女みたいと言われるのが一番嫌い」と少年っぽく答えている。

淀川長治:世界映画史上稀に見る、スターとなった映画評論家。ユナイト映画宣伝部長、「映画の友」編集長などを歴任、60年代に「サヨナラ、サヨナラ」の名調子でテレビの映画解説者として大ブレイク。「ヨドチョー」さんとして愛され、亡くなる直前まで活躍。本編にもゲスト出演しているので、お見逃しなく。それにしても若かった!!

60年代&70年代ファッション:パンタロン、モノセックスをキーワードに。体にフィットしたラインや鮮やかな色彩が眩しいデザインは、現代のモードでもリバイバル中。日本のビジュアル系バンドや『ヴェルヴェット・ゴールドマイン』のグラムロックにも通じる『薔薇─』の新宿ストリート・ファッションは必見。

60年代日本映画:松竹ヌーベルバーグ、日本アートシアター・ギルド(ATG)の発展で、日本映画がもっとも前衛アートしていた時代。ATGの「一千万円映画」の中でも最大の問題作・話題作となった『薔薇─』には『心中天網島』の篠田正浩や、日活の新しい青春映画の旗手、『八月の濡れた砂』の藤田敏八監督も友情出演。

六本木:当時は華やかなネオンや夜の雑踏はなく、ピーターらが踊っていたゴーゴー・クラブや秘密クラブのメッカだった。


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