メランコリックな宇宙 ドン・ハーツフェルト作品集

インタビュー

ドン・ハーツフェルト インタビュー

--あなたの映画(とくに『ビリーの風船』と『リジェクテッド』)の暴力描写については良く言及されますが、恐怖や不安こそが一貫したテーマであるようにも思えます。自分自身でどう思いますか?

僕は意識的な計画・計算に基づいて作品を作ることはほとんどない。思いついたその日に作ってしまうことが多い。アイディアは皿を洗っていたり眠っていたり、そんなときにふとやってくる。だから映画が完成して、一歩下がってすべてを見渡してから、テーマだったり二重の意味だったり、他の人たちが指摘するようなことに気付くってことがよくある。だからその質問に答えるのは難しいな。表面的には、『リジェクテッド』も『きっとすべて大丈夫』も『リリーとジム』も『ビリーの風船』も全部違う。テーマはいつも同じところからやってきているし、いつも同じ言葉を語っていると思うよ。

--『なにもかも大丈夫』のほろ苦い美しさ、そのインスピレーションはどこから湧いてきましたか?

難しいな、いろんなところからやってきたんだ。ルーツについていえば、1999年に描いたビルというキャラクターの漫画にまで遡れるだろう。その時僕は違う映画を作っていたんだけど、僕の頭のなかでそのアイデアが姿をどんどんと変えていった。その他の部分については、夢、会話、記憶、人々の観察……そういったところから来てる。アイデアを出すときの最悪のやり方は、座って、空白のページを見つめて、自分自身を苦しめること。予期していないときにこそ、最良のアイデアはやってくるんだ。どうして、どのようにしてそれが湧いてきたのかわからない。アイデアがやってくるというよりも、パッとつかむという方が正しいかな。それから、そういう散らばったアイデアを結びつける共通の糸を探して、一緒にまとめ始めるんだ。制作のプロセスを通じてずっと、書き直したり入れ替えたりする。AからZまで順々に作っていくなんてことはしたことがないと思う。R、S、Tあたりから始めて、そのあとに残りを適宜埋めていくって感じだ。アニメートの作業はすごく時間がかかる。物語が完成するまでにかかる時間はかなりのものだ。『きっとすべて大丈夫』も同じだったけど、作業に取りかかるまでにだいたいのポイントはつかんでいた。それでも、最初のアイデアと完成品とのあいだには大きな違いがいくつもある。

--『きっとすべて大丈夫』に対する反応で、一番驚いたのは?

劇場で上映したときに、涙を流している人をみたときかな……そのときやっと、この映画は成功したと思えた。笑い声を耳にしたときじゃなくてね。ビルと同じ状況[病気によって死を意識すること]を個人的に深いレベルで体験した人と話すのは、僕にとってはいままでになかった体験だった。でも言っておきたいんだけど、他のアニメーション作家たちが、僕がアニメーションで奇跡を巻き起こしたっていうふうに僕に言ってくるときにはすごく奇妙な気分になる。マッチ棒型のキャラクターを使って泣ける作品を作ったことをすごく強調して驚くんだ。僕はこう思ってしまうよ……「なあ、よしてくれよ、それこそが僕らのやることだろ?」って。僕のマッチ棒型のキャラクターはあんたの写真のように精密な、手の込んだ作品以上のものでも以下のものでもない。だったらそのしんどい作業の負担を減らしてみたらどうなんだい、って。 (……)僕らはいまだに形式やツールに対して盲目なんだってことに驚くよ。(……)アニメーションについての記事は技術のことばかり。内容自体に見るべきものがある場合でもそうだ。赤いボールが青の三角形と悲劇的な恋に落ちる長編アニメーションを作ったっていいんだ。そんな作業を家できちんとこつこつとやれば、涙を浮かべない人なんていないはずだよ。

--あなたはソフトウェアを使った作品制作よりも、未だに映画作りの触覚的な面や機械的な面に興味を持っていると言えますか。

そうだね。単にマウスを使うより自分の手で作業する方が好きなんだ。 こうした素材にはある種のブレのようなものがあって、それをデジタルで再現するのは非常に難しい。こんな時代遅れの制作方法には、そこら中に欠陥が避け難く存在しているんだけど、でもその欠陥自体が、僕らに脳にはとても魅力的なんじゃないかな。人間は物事の完璧さよりも、そこにあるちょっとした欠陥に常に心を奪われるから。僕らが欠陥や、でこぼこやブレを魅力的に感じるのは、僕らもそんなような欠陥だらけの存在だからだと思う。親近感を感じるっていうことだ。何でもかんでもピカピカの光沢にコーティングされた、視覚的に完璧なものに僕は親しみを感じない。2Dとか3Dのアニメーションの99%は、僕には全部同じに見える。素晴らしいソフトウェアを使えるのに、本当に新しい事をしている人はほんの少ししかいない。

http://www.bitterfilms.com/articles.html より抜粋 翻訳:土居伸彰)

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