作品案内

特別上映&レクチャー「生活者としての被爆」

上映日程: 6月21日

日本は原子爆弾、原子力発電事故など、歴史を通じて数多くの“被爆体験”を経てきた特異な国だ。しかしながら、そこで日々を過ごす我々は意外と被爆の実態を知らないのではないか。放射線は自然現象でもあり、場合と程度によって生命の危機にもなり得る。 “平時”と“有事”の差とは一体何なのか。
東京では「ゴジラ・THE・アート」なる現代美術の展覧会が開かれている(森アーツセンターギャラリー)。1954年に上映された『ゴジラ』は第五福竜丸、第十三光栄丸の被爆事件から着想された。被爆と表現。原爆への強い怒りを元に作られた『へそと原爆』は1960年制作。反戦メッセージと共に、戦後に生まれた舞踏や現代音楽、現代詩の熱い坩堝を活写している。細江英公唯一の映画作品だ。
記憶に新しい東日本大震災の影響でメルトダウンした福島第一原発の大事故以降、さまざまな報道、学説、噂等があったが、実際に健康被害があるのかどうか人々がわかるには数十年かかるらしい。『原発切抜帖』は過去の事故および”その先”の対処や影響を地道に集めた映画で、これは過去の新聞記事が被写体ではあるが、数十年先に我々が目にするニュースのように見えてとても恐ろしい。
「GODZILLA」と「FUKUSHIMA」をつなぐ血縁が一つあって、1954年版ゴジラの音楽を制作した伊福部昭の甥にあたる工学者の伊福部達は緊急地震速報のチャイム音を考案した方であった。
「ゴジラ・THE・アート」キュレーター、『オッペンハイマー』原作本監訳の物理学者によるアフタートークも上映に合わせて開催。ゴジラとはなにか、放射線とはなにか。我々の被爆の日常について問い直してみたい。(澤隆志)




日時:2025年6月21日(土)  14時 /  18時(上映+レクチャー合計各90分を予定)
場所:イメージフォーラム3F「寺山修司」 (渋谷区渋谷2-10-2)
会場協力:イメージフォーラム
料金:1,500円(当日券のみ、各回30分前から開場、受付いたします)
企画:澤隆志




『へそと原爆』細江英公 1960/ 15分 土方巽、大野慶人
海岸で戯れる子供達の楽園に現れた一人の男が禁断のスイッチ(=へそ)を押すと…。写真家・細江英公が舞踏家・土方巽を主演に「ジャズ映画実験室」(‘60)で上映する為に制作した。千葉の海岸で撮影され、助演の大野慶人のほかは地元の漁師とその息子達が出演。海辺の強烈な太陽光がもたらすハイコントラストのモノクロ画面に浮かび上がる裸体が、土方の振付けによってユーモラスに蠢く。



細江英公
写真家。1933年山形県生まれ。東京を拠点に活動。1952年、東京写真短期大学(現東京工芸大学)入学。美術家の瑛九と交流を深める。大学卒業後はフリーの写真家として活動。1959年に、川田喜久治、佐藤明、丹野章、東松照明、奈良原一高らとともに写真家のセルフ・エージェンシー「VIVO」を設立。その頃に土方巽の舞踏『禁色』に出会い、土方や大野一雄と親交を深めた。1960年、個展「おとこと女」により日本写真批評家協会新人賞を受賞。同年に、唯一の映像作品『へそと原爆』を制作。その後も三島由紀夫を被写体とした『薔薇刑』や、土方巽を秋田の農村を舞台に撮影した『鎌鼬』(1969年芸術選奨文部大臣賞受賞)などを撮影。半世紀以上撮影してきた大野一雄は、2006年に『胡蝶の夢-細江英公人間写真集舞踏家・大野一雄』としてまとめられた。1998年紫綬褒章受章。2003年英国王立写真協会創立150周年特別賞授賞。2010年文化功労者に選出。2024年逝去。
 
『原発切抜帖』土本典昭 1982/45分 小沢昭一、高橋 悠治と水牛楽団
1980年代の初めからヨーロッパに再燃した反核運動は1982年に日本に及び、急ピッチに反対署名運動などが広がった。しかし、それは核兵器を対象とするもので、原発批判とは結びついていなかった。
この作品はそうした状況に一石を投じつつ、原爆被爆体験国から原子力大国へかけ進む日本の戦後史を、新聞記事の早めくりで一息に見直す意図をもって映像化された。主役は手持ちのスクラップ(切抜)と古い新聞資料。「絵にならない」文字言語、新聞のメディアを下図につくりあげた世界にもまれな実験映画の試みでもある。(配給会社シグロのHPより引用 https://www.cine.co.jp/works/1980/genpatsu/



土本典昭
1928年岐阜県土岐生まれ。1946年、早稲田大学へ入り日本共産党に入党。1956年岩波映画製作所に入る。1年でフリーとなり主に羽仁進の作品につく。映画での処女作は『ある機関助士』(1962)。以降『ドキュメント路上』(1963)、『留学生チュア・スイ・リン』(1965)と、独自のドキュメンタリーの世界を開拓。小川プロ制作の『パルチザン前史』(1969)で全共闘運動に終焉に向き合い、続いて『水俣-患者さんとその世界』(1071)を始めとした水俣病に関する多くの作品を発表。『よみがえれカレーズ』(山形映画祭'89で上映)などに一貫した弱者の立場から発言し続けている。現在、未来の「水俣・東京展」のため水俣に滞在、患者の遺影を集めていた。2008年逝去。(山形国際ドキュメンタリー映画祭HP参考:https://www.yidff.jp/docbox/8/box8-2.html

 
レクチャートーク
*14時上映ゲスト金秋雨(ゴジラ・THE・アート展キュレーター)
キュレーター。研究者。実験映像プラットフォームnon-syntax主宰。
東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科修了、同専攻博士後期課程在籍。主なキュレーションとして「Not in this Image」展 (Kuandu Museum of Fine Arts・台北)、EXiS 2023 (Experimental Film and Video Festival) アジア・フォーラム、芸術祭「Sense Island 2022/2024」 (神奈川)、「Competitive Meditation」展 (PARCEL・東京) 、「ゴジラ・THE・アート」展などがある。


 
*18時上映ゲスト山崎詩郎(物理学者・東京科学大学助教授)
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻にて博士(理学)を取得後、日本物理学会若手奨励賞を受賞、東京工業大学理学院物理学系助教に至る。科学コミュニケーターとしてTVや映画の監修や出演多数。
SF映画『インターステラー』の解説会を100回実施。SF映画『TENET テネット』の字幕科学監修や公式映画パンフの執筆、『クリストファー・ノーランの映画術』(玄光社)の監修を務める。最近では『オッペンハイマー』(早川書房)の監訳、『片思い世界』の科学監修を務める。