作品案内

〈特集上映〉北村皆雄監督 傑作選「聖なる俗 俗なる聖」

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上映日程: 5月11日〜5月24日

フィクションとドキュメンタリーを駆使して日本とアジアの「聖と俗」を捉えようとした北村皆雄60年の傑作選。最新作『倭文(しづり) 旅するカジの木』の公開を記念誌、初期3作品を含む、8作品を上映!

「神の島」と呼ばれ、琉球王朝最大の聖地とされる久高島で12年に一度行われる儀式「イザイホー」を映した幻想映画『カベールの馬』(1969)、西表島の最果てのムラの在来信仰と移住者との軋轢を赤裸々に描いた『アカマタの歌』(1973)。北村皆雄は日本とアジアの「辺縁」に赴き、そこに生きる人間の生きざまを映像に焼き付けてきた。障害を持ちながら自らの身体を芸にして世間を生き抜く見世物一座を記録した『見世物小屋』(1997)。放浪の俳人・井上井月の謎めいた生涯を辿る『ほかいびと』(2011)。あの世での幸福を願って死者の霊同士を結婚させる韓国漁村の習俗を濃密に記録した『冥界婚』(2016)。アイヌ長老の入魂の祈りを目撃した『チロンヌㇷ゚カムイ イオマンテ』(2021)。1970年代から「映像民俗学」を標榜する北村は、時にフィクションとドキュメンタリーを駆使しながら、虚実のあいだに現れる「聖と俗」をまるごと捉えようとしてきたのだ。最新作『倭文(しづり) 旅するカジの木』(2024)の公開を記念して、前衛的映画作家、ドキュメンタリー映画監督、テレビディレクター、冒険家、映像民俗学者と多様な顔をのぞかせる北村皆雄の60年の映画制作をふりかえる傑作選を開催する。早大在学中に前衛美術集団「ハイレッドセンター」の作品を取り入れて制作した処女作『白い影への対話』(1964)、即興による演出が光るテレビ番組『津軽じょんがら女考―青森―』(1976)を特別上映。

●【初期3作品・特別上映】
『白い影への対話』(1964年/24分)
北村皆雄第一作。街の中を不安に歩き回る男を映し出した実験的短編。東京オリンピック開催の年に、都市の無機質な質感を映し出す。赤瀬川原平らが結成した前衛美術集団「ハイレッドセンター」制作のオブジェを使用し、現代音楽家の小杉武久が音楽を担当。北村が早大在学中に制作し、紀伊国屋ホールで開催の第一回フィルム・アンデパンダンで上映された。
【制作】堀米直躬他6名【撮影】安西清、多和田修、田井克彦【編集】北村皆雄【音楽】小杉武久【美術】ハイレッドセンター、松目正毅【出演】鈴木両全

『カベールの馬〜1966年イザイホー〜』(1969年/28分)
琉球王朝最大の聖地・久高島の12年に一度の「イザイホー」の儀式。島に生まれた女性は、修練を経て男兄弟・家族・島を守る神女として生まれ変わる。その時「白い馬」を幻視するという。イザイホー撮影後、フィクション場面を追加し、俳優・北林谷栄が神話を語る幻想映画として完成させた。大学卒業後、テレビや記録映画、PR映画の監督として活動していた北村が、民俗学へと傾斜、自主制作した初期代表作。
【構成】赤羽敬夫、河手禎、北村皆雄【撮影】市川雅啓【編集】金沢信二郎【音楽】小杉武久【出演】内間マック、内間秀子、内間豊三【語り】北林谷栄

『津軽じょんがら女考―青森―』(1976年/21分)
家の守り神として篤く信仰されるオシラ様。青森県津軽地方では、年に一度、女たちが2体一対のオシラ様を携えて寺に集まり遊ばせる。自らもオシラ様を奉じる若き津軽三味線奏者・西川洋子が、信仰の場所を訪ねて歩く紀行風ドキュメンタリー。民俗学的なモチーフのテレビ番組を多数演出していた北村だが、当事者をナビゲーターに起用することで、現実とフィクションが混ざり合っていく作風が本作にも見られる。北村の企画立案によるテレビシリーズ「日本のおんなたち」の一編を特別上映。
【プロデューサー】高林公毅【撮影】杉山昭親

●『アカマタの歌海南小記序説/西表島・古見』(1973年/84分)
八重山諸島の西表島・古見の祭には、「アカマタ」という仮面仮装の来訪神が登場する。撮影隊はアカマタに魅かれて島を訪れるが、秘儀ゆえに撮影を拒まれる。スタッフはアカマタの出ない映画を撮ることになる。17軒の家々を一軒づつ訪ねてライフヒストリーを記録。見えてきたのは、アカマタを守る土着の民と新興宗教を信ずる移住者の対立だった。一方、島を去り都会で暮らす人たちは、「アカマタ」を心に抱いて生きていた。カメラの暴露性を撮影現場で自覚的に転換し、目に見えないムラの論理を撮ろうとした作品。北村は、本作以降「映像民俗学」を正式に標榜するようになる。語りは、村人の話を再構成するスタイルをとる。日本復帰の年(1972)撮影。
【撮影】柳瀬裕史【制作】松村修、小川克巳ほか【編集】北村皆雄【音楽】上地昇【録音】石子利之【語り】鈴木瑞穂

●『見世物小屋〜旅の芸人・人間ポンプ一座〜』(1997年/119分)
かつて祭りの場に忽然と現われ、不思議で怪しい世界に人々をいざなった見世物小屋。飲んだ金魚を生きたまま釣って出す、飲んだ碁石を黒白分けて出すなど、想像を絶する芸で観客の視線をわしづかみにした「人間ポンプ」こと安田里美とその一座の興行を内側から記録。一座の9人は誰しも障害を抱えているが、本物の家族のように支え合って生きている。社会保障に頼れなかった時代、医者も法律も宗教も救えない人たちを「見世物小屋」が救っていた。自らの身体を芸として、虚実の間を軽々と行き来する芸人たちの生きざまを、秩父夜祭興行の中にとらえた。
【企画協力】鵜飼正樹、上島敏昭【撮影】明石太郎、高橋愼二【編集】北村皆雄【制作】三浦庸子【語り】麿赤兒【出演】安田里美興行社

●『ほかいびと〜伊那の井月〜』(2011年/119分)
芥川龍之介や種田山頭火、金子兜太らが高く評価した俳人・井上井月(いのうえ・せいげつ)。幕末から明治にかけて30年間、信州伊那谷を放浪し、一宿一飯のお礼に俳句を残し、やがて野垂れ死に同然に死んだ。その生涯をドキュメンタリーとフィクションで描く。舞踊家・田中泯が井月を演じると同時に、ゆかりの地を訪ねる現代の旅人となることで、井月の謎めいた生涯が次第に実体化していく。北村の故郷・伊那谷の人々が80年をかけて採集した1800句をもとに、彷徨える井月の魂を田中の身体に憑依させるが如く完成させた。語りは俳優・樹木希林。音楽は現代音楽家の一柳慧。
【撮影】高橋愼二、金沢裕司、明石太郎、北村皆雄【編集】田中藍子【技術】黒木禎二【照明】小西俊雄【音楽】一柳慧【音響】齋藤恒夫【衣装】山口源兵衛【制作】三浦庸子【制作実行委員長】堀内功【主演】田中泯【語り】樹木希林

●『冥界婚』(2016年/1999年撮影/104分)
1999年、34歳の韓国人が遠洋漁業中に行方不明になった。誤って海に落ちたのか、それとも事件なのか?残された親族は、ムーダンと呼ばれるシャーマンの一団に依頼して、亡者のあの世での幸福を願い、死後結婚を執り行う。花嫁は失恋自殺をした27歳の女性。すると死者の霊が生者に憑依し、家族への想いや現世への未練をとうとうと語りはじめる。死者と生者の感情が激しく交錯し、哭きと恨のめくるめく世界が劇的に立ち現れる。韓国東海岸で活躍したムーダンのリーダーで人間文化財の金石出(キム・ソクチュル)一座の貴重な記録。2014年に起きたセウォル号沈没の悲劇を契機に、撮影から15年あまりを経て完成させた。
【撮影】毛利立夫、北村皆雄【編集】田中藍子【出演】金石出とその一団【学術監修】崔吉城【翻訳】金惠燕【制作】三浦庸子

●『チロンヌㇷ゚カムイ イオマンテ』
(2021年/1986年撮影/105分)
1986年、北海道・屈斜路湖を望む美幌峠で「チロンヌㇷ゚カムイ イオマンテ(キタキツネの霊送り)」が行われた。狩猟民であるアイヌの伝統的な考えでは、動物は自らの肉や毛皮をみやげにして人間の国へやってくる。人々は、キタキツネをわが子のように育てると、祈りを捧げ、歌や踊りで喜ばせ、みやげを背負わせて神の国へ送る。不世出の伝承者と言われる日川善次郎エカシが、この珍しい神事を75年ぶりに甦らせる。その入魂の祈りを、アイヌ語研究の第一人者中川裕氏が全てアイヌ語で書き起こし、現代日本語訳をつけた。
【語り】豊川 容子【音楽】豊川容子+nin cup 【司祭者】日川善次郎エカシ【企画・スチル】堤 大司郎【監修・カムイノミ対語訳】中川 裕【制作】三浦 庸子

▶︎2024年5月11日(土)より公開予定
▶︎上映スケジュールは下記をご覧ください
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★連日トークショーあり 詳細はこちらをご覧ください

《当日料金》一般:1,500円/大学・専門学生:1,300円(学生証の提示が必要)/シニア:(60歳以上)1,300円/会員:1,200円(会員証の提示が必要・同伴1名まで同額割引)/障がい者割引:1,200円(手帳の提示が必要・付添いの方1名まで同額割引)
毎月1日映画サービスデー:一律1,200円/毎週月曜日サービスデー:一律1,200円

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