〈特集上映〉タル・ベーラ 凝視せよ、抵抗せよ

タル・ベーラの死から一年、初公開以来長らく日本では観ることが叶わなかった『倫敦から来た男』を初めてデジタル版でリバイバル公開し、彼の長編6作を一挙上映する。
〈上映6作品〉
●『ファミリー・ネスト』4Kデジタルレストア版
1977/ハンガリー/105min
監督・脚本:タル・ベーラ
撮影監督:パプ・フェレンツ
音楽:スレーニ・サボルチ、トルチュヴァイ・ラースロー、モーリツ・ミハーイ
編集:コルニシュ・アンナ
出演:ラーツ・イレン、ホルヴァート・ラースロー、クン・ガーボル、クン・ガーボルネー
住宅難のブダペストで夫の両親と同居する若い夫婦の姿を、16ミリカメラを用いてドキュメンタリータッチで5日間で撮影した、22歳の鮮烈なデビュー作。不法占拠している労働者を追い立てる警察官の暴力を8ミリカメラで撮影して逮捕されたタル・ベーラ自身の経験を基にしている。「映画で世界を変えたいと思っていた」とタル・ベーラ自身が語る通り、ハンガリー社会の苛烈さを直視する作品となっている。社会・世界で生きる人々を見つめるまなざしの確かさは、デビュー作である本作から一貫している。
●『アウトサイダー』4Kデジタルレストア版
1981/ハンガリー/128min
監督・脚本:タル・ベーラ
撮影監督:パプ・フェレンツ、ミハーク・バルナ
音楽:サボー・アンドラーシュ、ホボ・ブルース・バンド、ニュートン・ファミリー、ミネルヴァ
編集:フラニツキー・アーグネシュ
出演:サボー・アンドラーシュ、フォドル・ヨラーン、ドンコー・イムレ、バッラ・イシュトヴァーン
社会に適合できないミュージシャンの姿を描いた監督第2作にして珍しいカラー作品。この作品がきっかけで、タル・ベーラは国家当局より目をつけられることになる。本作以降すべての作品で編集を担当するフラニツキー・アーグネシュが初めて参加。酒場での音楽とダンスなど、タル・ベーラ作品のトレードマークと言えるような描写が早くも見てとれる。日本でも80年代にヒットしたニュートン・ファミリーの「サンタ・マリア」が印象的に使われている。
●『ダムネーション/天罰』4Kデジタルレストア版
1988/ハンガリー/121min
監督・脚本:タル・ベーラ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
撮影監督:メドヴィジ・ガーボル
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
編集・共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
出演:セーケイ B ミクローシュ、ケレケシュ・ヴァリ、テメシ・ヘーディ、パウエル・ジュラ、チェルハルミ・ジュルジュ
クラスナホルカイ・ラースローが初めて脚本を手掛け、ラースロー(脚本)、ヴィーグ・ミハーイ(音楽)が揃い、“タル・ベーラスタイル”を確立させた記念碑的作品。ラースローと出会ったタル・ベーラは『サタンタンゴ』にすぐに取りかかろうとしたが、時間も予算もかかるため、先に本作に着手する。不倫、騙し、裏切りー。荒廃した鉱山の町で罪に絡みとられて破滅していく人々の姿を、『サタンタンゴ』も手掛けた名手メドヴィジ・ガーボルが「映画史上最も素晴らしいモノクロームショット」(Village Voice)で捉えている。
●『サタンタンゴ』4Kデジタルレストア版
1994/ハンガリー=ドイツ=スイス/438min
監督・脚本:タル・ベーラ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
撮影監督:メドヴィジ・ガーボル
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
編集・共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
出演:ヴィーグ・ミハーイ、ホルヴァート・プチ、デルジ・ヤーノシュ、セーケイ B ミクローシュ、ボーク・エリカ
クラスナホルカイ・ラースローの同名小説を原作に、4年の歳月をかけて完成させた映画史上伝説の7時間18分。降り続く雨と泥に覆われ、活気のない村に死んだはずの男イリミアーシュが帰ってくる。彼の帰還に惑わされる村人たち。イリミアーシュは果たして救世主なのか?タンゴのステップ〈6歩前に、6歩後へ〉に呼応した12章で構成される本作は、秩序に縛られ、自由を求め、幻想を抱き、未来を信じ、なおかつ世界に幻滅する人間の根源的な姿を、全編約150カットという驚異的な長回しで詩的かつ鮮烈に描いている。
●『ヴェルクマイスター・ハーモニー』4Kデジタルレストア版
2000/ハンガリー=ドイツ=フランス/146min
監督・脚本:タル・ベーラ
原作・脚本:クラスナホルカイ・ラースロー
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
編集・共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
出演:ラルス・ルドルフ、ペーター・フィッツ、ハンナ・シグラ、デルジ・ヤーノシュ
本作をきっかけにNYのMOMAでタル・ベーラの特集上映が組まれ、ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サントなどを驚嘆させ、世界に衝撃を与えた記念碑的作品。天文学が趣味のヤーノシュは老音楽家の身の回りを世話しているが、彼らの日常に不穏な“石”が投げ込まれる。広場に忽然と現れた見世物のクジラと“プリンス”と名乗る扇動者の声。その声に煽られるように住人達の不満は沸点に達し、破壊とヴァイオレンスへと向かい始める。扇動者の声によって人々が対立していく様は、四半世紀前の製作ながら、見事なまでに現在を予兆している。
●『倫敦から来た男』デジタル版
2007/ハンガリー=フランス=ドイツ/139min
監督:タル・ベーラ
原作:ジョルジュ・シムノン
脚本:クラスナホルカイ・ラースロー、タル・ベーラ
撮影監督:フレッド・ケレメン
音楽:ヴィーグ・ミハーイ
編集・共同監督:フラニツキー・アーグネシュ
出演:ミロスラヴ・クロボット、ティルダ・スウィントン、ボーク・エリカ、デルジ・ヤーノシュ
「罪とは何か?」「罰とは?」と問いかけ、誰もが罪人になりえるという人間の脆さと哀れを描く物語を描くにあたってタル・ベーラは空間の概念を揺るがすカメラワーク、登場人物の心情をも見透かすような長回しを駆使し、完璧なモノクロームの世界を作り上げた。冒頭の港のシーンは、驚くことにコルシカのバスティア港に作られたセットであり、そのファーストショットを観ただけで、一切の妥協を許さないタル・ベーラの姿勢がうかがえる。インディーズ映画からハリウッド超大作まで幅広く活躍するティルダ・スウィントンが、退廃的な美しさを漂わせるマロワンの妻を見事に演じている。
▶︎2026年12月19日より公開
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