チュルヒャー兄弟 ミニアチュールの詩学 『動物三部作』

猫が歩き、蜘蛛が巣を張り、雀が出口を探す。家族が集うベルリンのアパート。引っ越しの荷物が行き交う二つの部屋。姉妹とその家族が集う、森のほとりの古い家――。
ラモン& シルヴァン・チュルヒャーの映画では、世界はいつも、見慣れた小さな場所から始まります。静止したカメラが見つめるその内部では、人々の視線や身体、言葉と沈黙、家具や家電、食器の音や機械の唸り、扉の向こうの気配までが互いに反応し合います。誰かが歩けば、別の誰かが立ち止まる。何気ないひと言が親密さを生むこともあれば、小さな傷となって残ることもある。人と物と動物が精密な運動を始めるとき、ありふれた日常は、家庭内のバレエとも呼ぶべき独特の映画空間へと変貌します。三作品をつなぐ猫、蜘蛛、雀は、それぞれ異なる自由のかたちを映し出します。野性をあとにした猫。さまざまな場所に自らの住処を編む蜘蛛。閉ざされた煙突から空への出口を探す雀。その姿は、家族や友情、社会的な役割のなかにとどまりながら、より自由な生を求める人間たちと静かに響き合います。2025年の東京フィルメックスでは、「特集:ラモン・チュルヒャー 『動物』三部作の世界」として、『ストレンジ・リトル・キャット』『ガール・アンド・スパイダー』『煙突の中の雀』の三作品を上映。ほぼ満席となる回もあるなど高い関心を集め、三部作をまとめてスクリーンで観る機会への期待の高さを印象づけました。これまで限られた上映機会のなかで熱心な映画ファンを魅了してきたチュルヒャー兄弟。その三作品が、今回初めて「動物三部作」として本格的な全国劇場公開を迎えます。
〈上映作品〉
『ストレンジ・リトル・キャット』THE STRANGE LITTLE CAT
2013年/ドイツ/72分/カラー/1:1.66/ドイツ語
監督・脚本・編集・サウンドデザイン:ラモン・チュルヒャー
出演:イェニー・シリー、アンヨルカ・シュトレッヒェル、ミア・カサロ、ルク・プファフほか
●カリンは、両親と幼い妹クララが暮らすベルリンのアパートを訪れる。その晩には親戚たちも集まり、皆で夕食をとる予定だ。洗濯機の修理を待ち、台所のテーブルを囲み、オレンジの皮を使って実験をする。肺について語り、わざと引きちぎられたボタンを縫い直す。猫と犬が部屋を歩き、人々は出入りを繰り返す。一見すると、何も特別なことは起こらない。しかし、小さな行為が次の行為を呼び、一つの言葉が別の言葉へと連なっていくうちに、ありふれた家族の一日は、奇妙で精密な連鎖反応へと変わっていく。
『ガール・アンド・スパイダー』THE GIRL AND THE SPIDER
2021年/スイス/98分/カラー/1:1.66/ドイツ語
監督・脚本:ラモン&シルヴァン・チュルヒャー
編集:ラモン・チュルヒャー、カタリーナ・ベンド
出演:ヘンリエッテ・コンフリウス、リリアーネ・アムアト、ウルシナ・ラルディ、フルリン・ギガーほか
●リザは、長年マーラらと暮らしてきたシェアハウスを出て、初めて自分だけのアパートへ引っ越す。変化を楽しみにするリザとは対照的に、
取り残されるマーラの感情は激しく揺れる。引っ越し前日、段ボール箱が詰められ、衣類が仕分けされ、家具が新居へ運び込まれる。リザの母アストリッド、引っ越し作業員のユレクとヤン、新しい隣人カレンらが出入りするなか、切望、密かな欲望、嫉妬、緊張が表面へ浮かび上がる。その夜、旧居では送別パーティーが開かれる。熱に浮かされたような一夜を経て引っ越し当日を迎えると、マーラのつながりを求める欲望はさらに強まり、部屋そのものが切望に震える一つの身体へ変わっていく。
『煙突の中の雀』THE SPARROW IN THE CHIMNEY
2024年/スイス/117分/カラー/1:1.66/ドイツ語
監督・脚本・編集:ラモン・チュルヒャー/製作:シルヴァン・チュルヒャー
出演:マレン・エッゲルト、ブリッタ・ハンメルシュタイン、ルイーゼ・ハイヤー、アンドレアス・デーラーほか
●カレンは夫と子どもたちとともに、のどかな場所に建つ、彼女が幼少期を過ごした家で暮らしている。夫の誕生日を祝うため、カレンの妹ユーレが一家で訪ねてくる。自由奔放なユーレは、亡き母を思い起こさせるこの家を幼いころから嫌っていた。カレンの娘ヨハンナや息子レオンも母に反発し、家の内部にはカレンを引きずり下ろそうとする力学が生まれる。さらに、森のはずれに暮らし、毎日カレンの犬を散歩させる謎めいた女性リフが、夫と秘密の親密さを分かち合っている。家が人々の気配で満たされ、煙突に迷い込んだ雀が自由への出口を探すなか、カレンの緊張は高まっていく。やがてすべてが頂点に達し、新しいもののための場所をつくるように、古いものが破壊される。
〈チュルヒャー兄弟〉
スイス出身の双子の映画作家。1982年、スイス生まれ。ラモンはベルン芸術大学でビジュアルアーツを学び、のちにベルリン・ドイツ映画テレビアカデミー(DFFB)で映画監督を専攻。シルヴァンはベルン大学とチューリヒ大学で哲学、映画学、ドイツ文学を学び、同じくDFFBで映画製作を専攻した。ラモンの卒業制作であり、シルヴァンが製作を務めた長編第1作『ストレンジ・リトル・キャット』は、2013年ベルリン国際映画祭フォーラム部門で初上映され、世界各地の映画祭で注目を集めた。第2作『ガール・アンド・スパイダー』では兄弟が共同で脚本・監督を担当し、2021年ベルリン国際映画祭エンカウンターズ部門の監督賞とFIPRESCI賞を受賞。第3作『煙突の中の雀』では、ラモンが脚本・監督・編集、シルヴァンが製作を担い、「動物三部作」を完成させた。
▶︎2025年10月30日より公開
《当日料金:1作品あたり》一般:1,900円/大学・専門学生:1,400円(学生証の提示が必要)/シニア:(60歳以上)1,400円/会員:1,300円(会員証の提示が必要・同伴1名まで同額割引)/障がい者割引:1,300円(手帳の提示が必要・付添いの方1名まで同額割引)
毎月1日映画サービスデー:一律1,300円/毎週月曜日サービスデー:一律1,300円












