The Films of Taku Furukawa

上京物語
TYO-STORY

監督・脚本・作画:古川タク
音楽・演奏:本多俊之 音響監督:山崎宏
アニメーター:湯川高光+ユカワ・モリ
1999年作品/カラー/35ミリ/13分

【イントロダクション】
「上京物語」は、イラストレーダー&アニメーターとして、1970年代の初めから活動を続けてきた古川タクの久々の短篇アニメーション作品で、自主短篇作品としては第19作。古川タクは処女作『牛頭』が'69年アヌシー国際アニメーション映画祭にインコンピティションして以来、1975年には『驚き盤』が同映画祭審査員特別賞、1980年『スピード』が毎日映画コンクール大藤信郎賞、1990年代に入って『TarZAN』が第3回国際アニメーション映画祭広島大会カテゴリーB、2ndプライス、『以心伝心しよう』が第5回国際アニメーション映画祭広島大会カテゴリーC,1stプライスと、実験アニメやエンターテインメントアニメで時代をこえて注目を浴びてきた。余分な装飾や背景描写を極力省いて観客の想像力に余白を委ねる手法は、ほぼ一貫して変わらない。

実験色の強かった'70年代〜'80年代作品が、'90年の『TarZAN』でやや、ストーリー性をもったエンタテインメントに変わってきたと思ったら今度は、小津安二郎の『東京物語』をベースに一気にコメディ路線だ。といってもおそらく完全なパロディを狙ったものではなくて、ロードムービ風に話を進行させながら、今の東京、日本を喜劇タッチで描くために、ちょいと『東京物語』を拝借してきたといったところだろう。

といっても、あの笠智衆にも見方によってはETにも少し似ているおじいちゃんと、東山千栄子に似ていなくもないおばあちゃんの二人が瀬戸内の島から上京してくるあたりは『東京物語』である。新幹線の車内で揺られながら、わが娘や息子の幼年時代のアルバムに見入ってる場面は、小津の乗り物撮影シーンを意識したものなのか、あるいは古川タクの描線がもともとブルブル震えているからなのか。医者である娘婿が、上京してきたおじいちゃんをソファに座って歓迎するシーンは、小津お得意のロウアングルを意識したものなのか、ただ娘婿がデブでソファが沈んでいるだけなのかは定かではない。同じシーンで窓の向こうを右往左往する人物たちに注目してみると、突然、懐かしい久里洋二氏の『殺人狂時代』に登場する看護婦さんや救急車がどさくさに紛れ込んで来る。これはアニメーションの師である久里氏へのオマージュであり、実際に『殺人狂時代』の頃、古川は、久里洋二氏の実験漫画工房でアニメーションを学び、三島由紀夫が割腹するとお腹の中から札束がどさっと出てくるシーンのアニメーションを担当した。また殺される男の“声優”もやっているという。

前作『TarZAN』の時にもチラッと通過した、シルエットのロードランナーとコヨーテがまたもや一瞬通り過ぎる。よっぽど好きなんだろう。ちなみに監督はまた自称目本一のマイクロぜんまい玩具のコレクターらしく、中でもこのロードランナーのマイクロぜんまい玩具を、自慢たらたら人に見せびらかすそうだ。その他やはり『TarZAN』のラストシーンにでてきた佃島辺りにありそうな超高層マンションには、こんどは息子夫婦が住んでいて、ラストシーン近くで印象的に登場する。見方によっては『TarZAN』の続編ともとれる。アフリカ狂いの都会のターザンも10年ですっかりおじいちゃんになったものだ。実は『上京物語』の前にSF、火星探検物を企画していたのだが、ストーリー上どうしてもダイアローグが多い物になりそうで断念した。『上京物語』はずっとやりたかった作品で'94年頃にいちどミュージカル仕立てで絵コンテを描きはじめて中断していた。これにはライオンやティンマンがでてきて、今回の『上京物語』とはまったく違う話だったようだ。

音楽はヒューマンライフシネマが作った『パパロワさん今晩は』で組んだ本多俊之との2回めのコンビだ。本多俊之氏は今さら書うまでもなく高名なジャズのサックスプレイヤーであり作曲家である。『マルサの女』のテーマ曲他、伊丹映画には欠かせない。また、ほとんど毎晩のように耳に飛び込んでくるNHKの「クローズアップ現代」の印象的なテーマ曲も彼の作品だ。今回も監督の期待を上回るすばらしいオリジナルのテーマ曲を数曲書いてくれた。しかも本多俊之、本人のなまサックス演奏付きだ。この力強い音楽を得て、処女作以来ずつと古川作品を助け続けてきた山崎宏ががっちりと音響監督をつとめるという華麗なスタッフが勢揃いした。
制作に関しては、アニメーターとして、これまた『コーヒーブレイク』以来、たびたび古川作品をサポートしてきた、湯川高光とユカワ・モリが参加し、今回はじめてオールデジタル2Dによるアニメーションを採用した。フィルム制作とはあまりに勝手が違うため、とまどいや失敗の連続で試行錯誤した由。デジタル・データからフィルムにすることのあまりの大変さに途方に暮れたり、ビデオのあいまいさに驚いたり、過渡期の映像制作の難しさを痛感したという。デジタルだろうがアナログだろうが変わることのない春風駘蕩然とした古川作品のユーモアが観客に伝われば、監督の望む所であろう。


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