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未来の考古学
ビデオテープにオープンリールがあったことを憶えている人がどれくらいいるだろうか? また、DVDは今後どのくらい主流の記録メディアでいられるのだろうか? これらの媒体が半永久的に使用可能だとして、再生するデバイスが無かったらどのように解釈されるのか・・・ このプログラムはニューヨーク在住の映像作家、メディア・アーティストであるカスパー・シュトラッケの映像作品の特集プログラムである。今回上映する作品は、開発、発展のなかで忘れられた記録メディアやデバイスを掘り起こし、切断され機能不全に陥ったコミュニケーションのかたちを再検証する試みに満ちている。周期的に現われるノイズや伝わらない信号や読めないコードを通して、電子メディアで電子メディア自体を省みるようなアプローチを提示する。最新の長編映像プロジェクト『回路断絶』からも2パートをいち早く紹介する(澤隆志)

作品紹介・作品コメント
マニュアル作業のグルーヴ●労働が機械化されたことによる、「デジタル化」を示唆した作品。労働の断片化とイメージの断片化とを併置した。(ローラ・U・マークス)
ノー・ダメージ●80もの劇映画やドキュメンタリーからサンプリングしたニューヨークの建築物の場面から構築されている。壮大や歓喜、脅威や優勢および匿名性など、如何に建築物の描写がクリシェに満ちているかを調査し、急速に変化する都市環境との新しい関係を築く。
ビデオディスク・シリーズ●3つの作品で成り立っている。CEDと呼ばれる旧式のディスク式の映像記録メディアのハードとソフトの特性を生かした作品『SKT-090:2001』はキューブリックの代表作『2001年宇宙の旅』を収録したディスクに、ボイジャー・レコード(ボイジャー1,2号に搭載された知的生命体に向けてのメッセージの刻印された直径30cmの銅製のレコード)の図柄を直接なぞり、そのキズが映像ではノイズとなって現われるというもの。ターンテーブルとしてのビデオディスクの機能を生かしたユーモア。『トロン』『キューブリック・スペース』は、ポンコツのビデオ・ディスクのデッキが巨匠達の名画を脱構築していく。痙攣的に動く電子戦士トロンやオーバールック・ホテルを永遠に徘徊するジャック・ニコルソンを機械が無限に生み出す。
z2[zuseの帯]●世界最初のデジタル・コンピュータの一つであるz2は、記録媒体に撮影済みフィルムを使っていた。パンチカードの様にフィルムに丸穴が開けられ、その配列が8bitのバイナリ・コードとして認識される。そしてその情報はフィルムに写っている画像とは全く何の関係も持たない。作者はこのフィルムを「世界初のデジタル・シネマ」と呼んだ。情報としてのイメージ、イメージとしての情報が一枚のフィルムに記録されている。12月12日から2004年2月29日まで、初台のインターコミュニケーション・センターでこの作品のインスタレーション版が展示されている。
回路断絶●この作品は、始まりと終わりが特に決まっているわけではなく、どの時点からでも再生可能な「映画的インスタレーション」である。5つのチャプターによって構成されており、現代の様々なコミュニケーション局面に生じる障害とその影響についての考察がそれぞれの形で提出される。全体をつなぎあわせるのが、電話の発明者アレクサンダー・グラハム・ベルについてのドキュメンタリー。今回の上映では寺山修司の『毛皮のマリー』にインスパイアされたチャプター『HOOKS』と、サイレント映画にオマージュをささげた『HOBART』を取り上げる。
カスパー・シュトラッケ●1967年ダルムシュタット生まれ。NY在住。数多くの実験映画を制作し、97年以降はデジタル・メディアやメディア考古学に携わる。作品はアメリカを中心に多くの映画祭、の長編『回路断絶』を完成、全米をツアーし、ホイットニー・ミュージアムでの展示「アメリカの世紀2」にも選出された。
www.videokasbah.net/
FUTURE CINEMA─来たるべき時代の映像表現に向けて(icc)
z2[zuseの帯]
受付
当日900円/会員600円

■プログラム
マニュアル作業のグルーヴ ビデオ/7分/1997
ノー・ダメージ ビデオ/13分/2001
SKT 090 CED:2001 ビデオ/6分/2001
トロン ビデオ/6分/2002
キューブリック・スペース ビデオ/6分/2003
z2[zuseの帯](ビデオ版) ビデオ/7分/2003
回路断絶:TRABOH ビデオ/11分/1997-2001
回路断絶:HOOKS ビデオ/12分/1997-2001
※全てカスパー・シュトラッケ作品