イントロダクション
今回は『affordance』と『Parallax』でイメージフォーラム・フェスティバルにノミネートされ、『affordance』で優秀賞を受賞した野辺ハヤトのアニメーション作品を網羅した初めての個展である。
野辺さんの作品には共通した雰囲気のキャラクターが登場する。人間と動物と妖怪の中間のようで、ちょっと孤独そうな佇まいをしている。イメージフォーラム・フェスティバル2021のカタログ掲載のインタビューでは、「曖昧な形で、なんとなくフォルムがちょっとやわらかく見え、弾力性があって何かを吸収しやすいようなイメージがある」と語っているが、見る人によって様々なイメージをかき立てられるデザインではないかと思う。そうしたキャラクターや背景ふくめた世界全体が、あたかもある種の生態系のように動いて展開していくというのが野辺さんの作品の特徴である。
作画についてはPhotoshopを使って作った動きを一度トレーシングペーパーに描き出しているそうで、そこから生まれるアナログのゆらぎが演出に一役買っている。デジタルの明確さから距離を置いたそんな割り切れなさが現実世界の相似形として画面の上に現れてくる。流転を繰り返す世界の中で、孤独に佇むキャラクターの姿は今を生きる我々の姿だと捉えることもできるだろう。アニメーションの真の魅力はその動きにあると思うが、言葉によらない絵と動きの力で作者の思いが観客の心にぐさっと刺さってくるのである。(イメージフォーラム 門脇健路)
上映作品(3作品/69分)
Caterpillar デジタル/17分/2013
affordance デジタル/18分/2016
Parallax デジタル/34分/2021
※上映後には野辺ハヤトによるティーチインあり。
作品解説
『Caterpillar』
あまりにも多くの人々、多くの物、過度の情報によって、真実と本質は薄れゆく。それによって多くは思考停止し想像力を失っていく。
構築された価値観は飽和状態にあり、ひと握りのものが存続する為に、必要でないものがあたかも必要であるように存在し、浪費させるための法則や理由が定義付けられている。
押し付けられている価値観に気付けずに、ただ流されている人々。無意識のうちに、あるいは無関心がゆえに。あいまいな状況の世の中で、豊かさを求めた繁栄の影を知りつつも過去に縛られながらそれを疑問に思う。新たな思考を求めようとすればそこには何も無く不安を覚える。
そこから新しい世界に目を向けることができたら。(野辺ハヤト)
デジタルフィルムフェスティバル DOTMOV 2013 入賞
『affordance』
アフォーダンスは「環境が動物に与え、提供している意味や価値」である。よいものでも(食物やすまいのように)、わるいものでも(毒や落とし穴のように)、環境が動物のために備えているのがアフォーダンスである。
ー「アフォーダンス」佐々木正人ー
「アフォード(afford)」される行動のその先にあるものを、人は感じることができるのだろうか。
もしそれが出来たとき、人間はその結果を変えるべく成長することができるのだろうか。(野辺ハヤト)
サンフランシスコ国際短編映画祭 2018(サンフランシスコ / USA)VANGUARD AWARDS受賞
バンクーバー国際映画祭 2016 Tigers & Dragons部門 (バンクーバー / カナダ) 招待上映
イメージフォーラム・フィスティバル2016 (東京 / 日本)優秀賞
その他、海外映画祭に多数ノミネート
『Parallax』
“Parallax ”(パララックス・視差)
「二地点での観測地点の位置の違いにより、対象点が見える方向が異なること」(ウィキペディアより)
それは右目と左目のあいだに、人と人のあいだに存在する。
同じ現実がそこには存在していても、それぞれの背景によって異なる景色が広がる。その景色はお互いが干渉し合わない限り、ずっと平行線をたどってしまう。
右目と左目の視差の現象のように、片方の視点では立体感や距離感が損なわれてしまうように現実の人と人、社会と人の間にも歪んだ価値観が存在してしまう。その価値観はときに大きな流れとなり形成されることによって、例えば無謬主義のもと、曖昧模糊な状況を生み出しては、本質をものみ込んでいくのではないだろうか。
理解し得ないことを、理解するといった言葉では消化しきれない現状で、視差の存在そのものに目を向けて掘り下げていく、または自分の無意識下で同化させていくことが唯一の方法なのかもしれない。
隣人との視差に気づき、遠い人との視差に気づき、昨日と今日の自分の視差に気づき少しずつ、その何かを受け入れたい。(野辺ハヤト)
ザグレブ国際アニメーション映画祭 ワールドパノラマ公式セレクション
第76回毎日映画コンクール ノミネート
イメージフォーラム・フィスティバル2021 ノミネート
ぴあフィルムフィスティバル2021 ノミネート
第21回ニッポン・コネクション 日本映画祭 招待上映
野辺ハヤト