イントロダクション
「大木裕之の『松前君の映画』の成立は、現実に何かが起こっているからそこに行ってそれを映像にするというドキュメンタリーや、観念を具現するのに最も適したものがあるからそこに行ってそれを映像にするというストーリーフィルムなどとは、現実と映像との関係が逆転したところにあるといえよう。ここに、この映画の先鋭的な問題性があるのだ。」鈴木志郎康(映像作家・詩人)
新年の松前に滞在し、その土地の人間の生活、時間、意識、記憶…を「松前君」というフィクションの視点で見つめつつ日記的に撮影された大木裕之のライフワークと言える「松前君シリーズ」が1989年に始まってから30年。21作目となる最新作『松前君の映画2019』の完成に合わせ、シリーズ中の主要作品を上映する。
無編集でありながら巧妙に構成された映像的時間と、そこから感じ取られる作者の思考の変遷が映画的な興奮を呼び起こす第1作目の『松前君の映画』に始まり、時にはスタイルを変えつつ、まさに生き物のように「松前君」シリーズは展開してきた。「撮影する」という行動が映画を生成していくスリリングな瞬間がそこにはある。そして、シリーズを通して流れる時間(8ミリから16ミリを経てデジタルへと変遷したメディアの変化も含めて)から、個々の作品と相似形をなす思考の変遷を読み取ることで「松前君」の世界はより深化していく。
(イメージフォーラム 門脇健路)
上映作品
Aプログラム
松前君の映画2019 デジタル/81分/2019
Bプログラム
松前君の映画 8ミリ/180分/1988-1989
Cプログラム
松前君のための映画 8ミリ/80分/1990
Dプログラム
松前君の旋律 16ミリ/50分/1992
松前君の旋律U デジタル/51分/2004
Eプログラム
松前君の兄弟の神殿の形1 デジタル/60分/2006
松前君のための赤いパブリックパンツ映画 デジタル/34分/2012
Fプログラム
松前君の映画2009 デジタル/83分/2009
※Aプログラム各回上映後には大木裕之によるティーチインあり。
大木裕之
1964年生まれ。東京大学工学部建築学科在学中から映像作品を制作。『松前君の映画』はイメージフォーラム映像研究所卒業制作として制作された。その後、『遊泳禁止』でイメージフォーラム・フェスティバル1990審査員特別賞、『HEAVEN-6-BOX』で第46回ベルリン国際映画祭NETPAC賞受賞するなど国際的に活躍。映像制作の他、パフォーマンス、ドローイング、インスタレーションなど様々な創作活動を続けている。