HACK&BUILD 電波と造形
「処女作に作家の全てが含まれている」とは巷間よくいわれるが、坪田義史の1997年の作品『耳プール』を見てなるほど頷ける。長編劇映画を完成させた現在も変わらない、彼の、画面のそこかしこに現れる粗雑でキッチュな「裏モノ」の美が既に現れている。猛々しいのに、何故か乾いたユーモアさえ感じる男どもの不格好な肉塊やヘンテコなオブジェが印象的だ。さらに、これらがラジオ・コントロールされているのも興味深い。というのも、後の『でかいメガネ』『夜明け』につながる”電波”のモチーフに直結しているからである。盗聴や傍受、ハッキングの突き刺すような快感、おどろおどろしいワイドショーや実録物の放送メディア、理想/妄想がないまぜになった市井の電波系キャラ、ノイズ・ミュージック... 今回は実質的な処女作から、近年の長編ドラマ作品までを通底する怪しい電波を傍受してみようとするプログラム。(澤隆志)
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● IFF2000カタログ 坪田義史インタヴュー(2000年3月14日)より
---全体の構成のイメージを聞かせて下さい。
坪田義文(以下、TY) なにかこう、となりの家のケンカを覗いているようなドキドキするような感じにしたかったんです。その家は近所で噂になったりする下世話な感じで・・・
---見ている人にパニックを期待しますか?
TY そうですね。目の前に突然パニックが起こる感じになればいいなあと思います。冗談にならない冗談みたいなものが大好きで。だから撮影前にも役者を煽ったり。それで、感情が高まってきたところでカメラを回しています。手伝ってくれているスタッフも、編集して音が入った時点まで自分が何をしているのか分からないままだったりします。かつての"ドッキリカメラ"みたいに。
---何かを仕掛けるということが好きなようですね。
TY もう本当に小さいころから好きで。人がだまされている時に顕れる本質を見るのが好きなんです。本当ヤな奴ですよね。
でかいメガネ
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偽りの車椅子姿で人前に現れる女、
日暮マチコ。
彼女の達しない、達する事のない日々。
その彼女が参加する胡散臭い前衛音楽集団「45%」。
彼等にある映像作家から映画のサウンドトラックの依頼が来る。
作家の注文は一つ。
それは「夜明けの音」。
「45%」のリーダー格、森田は執拗にライブ感と純度の高さにこだわり音への妥協を許さない。
戸惑いをみせる他のメンバー達もそれぞれのやり方で自分達の内面に潜む夜明けの音のイメージを模索する。
合宿時、リーダー格森田を満足させる音を提出できないメンバー達へのいらだちの吐け口として寡黙な日暮はそのターゲットとされる。
「ちなみに。今は。夜です...。」と言う日暮。
これは彼女の日常に映った音探しのぼやけた風景。
「45%」の模索する不完全な音源や言葉も、そのまま同時にこの映画のサウンドトラックとなり物語と共に展開していく。
夜明けについて
- 1975年生まれ。多摩美術大学卒。在学中に制作した映画『でかいメガネ』がイメージフォーラム・フェスティバル2000一般公募部門で大賞受賞。2002年、イメージフォーラム・フェスティバル制作助成作品『夜明け』を制作、公開。他に映画『月ときゃべつ』篠原哲雄監督作品に美術助手として参加後、『いたいふたり』『惨劇館夢子』にて美術監督をつとめる。現在、長編劇映画『美代子阿佐ヶ谷気分』が7月4日より公開。