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2005/12/11,18

アメリカは待っている
「MTV前夜」の実験映画と現代音楽の出会い

アスパラガス●アスパラガスのウンチをする女。窓の外には巨大な植物の庭。劇場に着くと彼女は鞄を開け、きれいなふわふわした夢を解き放つ。彼女は魔法使いなのか? 観客たちの熱狂を背にひっそりと部屋に帰った彼女は優しくアスパラガスを口に含み愛撫する……。当時、D・リンチの『イレイザーヘッド』と並び、ニュー ヨークを揺るがせたエロティック・アート・アニメーション!!

スーザン・ピット
ドー ルハウスの魔法リンチの『イレイザーへッド』が72年から77年の5年間を費やして完成した執念のフィルムとすれば、ピットも74年から78年まで4年の月日を『アスパラガス』に捧げている。描いた下絵は一万枚! おそるべきパワーではないか?『アスパラガス』にシンセサイザーによる音楽を提供したのは、音楽家リチャード・テイテルバウムである。彼は1966年にアメリカ人作曲家4人で旗揚げした実験的即興音楽集団ミュージカ・エレクトニカ・ヴィヴァの一員だった。このグループはモーグ・シンセサイザーの使用のかたわら心音、肉声、脳波などを電気的に変形して音楽に取り込むなどの試みをおこなったことで知られる。当時、すでに有名だった日本人の実験音楽家、小杉武久の名前がクレジットにみえるが、彼を参加させたのも、テイテルバウムだろう。『アスパラガス』の成功の一因は、テイテルバウムの音楽の催淫的な音のディテールと流れにあることもまちがいない。(滝本誠)

遠くを見れない男●作者のピーター・ローズは、アメリカ実験映画におけるポスト構造主義を代表する映像作家。この作家の特質は、コンセプトはきわめて硬質であるにもかかわらず題材の基本はパーソナルな体験をよりどころにしていること。映像がきわめてリリカルでしかも壮大なスケールで捉えていることなど、これまでの実験映画にはない数多くの要素を取り入れていることだ。クライマックスといえる最終章(5部構成)では、作者が一人、サンフランシスコの金門橋をカメラを持って登る。この孤独な撮影パフォーマンスが、彼の肩に固定されたカメラが写し出す風景によって、観客に寂寞とした共感をもたらす。金門橋を吊す巨大なケーブルと、米粒のようにカメラを持ってたたずんでいる作者と、その向こうの無限に拡がる空間が、作者のパーソナルな体験を超越して、私たちにミクロとマクロが混在した不思議な世界観を与えてくれる。なお、プロローグにおける「むかしむかし、遠くを見れない男がいた」という詩は、実はクゥアモンテスという架空の詩人が、どこの国の言葉でもない”言語”で詠んだもの。また、作中に流れるSKIES OF AMERICA はオーネット・コールマンの楽曲。

アメリカは待っている●デビッド・バーンとブライアン・イーノの曲を使った作品で、題名もトーキング・ヘッズのアルバムからそっくりいただいている。よく知られているように、コナーの映画はどれも既成のフィルムだけで作られているというのが特徴だ。制作に費やすエネルギーの第1段階は、市販のフィルム、TV局やCM会社に保存されているフィルム、軍が保存しているフィルム、教育映画、くず同然のフィルムを収集することである。第2段階では、その膨大なフィルムから、厳密に使用する部分を選択し、音とシンクロさせながら丹念に編集する作業である。処女作の『A MOVIE』(1958)を手がけて以来15年間、一貫してこうした制作方法をとってきた。まずは撮影することから始まるという映画作りの定石を、大きく逸脱しているのだ。これはおそらく作者が美術家出身であること、そしてとりわけジャセフ・コーネルのアッサンブラージュによるオブジェに多大な影響を受けたことになど、既成の映画作者の体質とは異なった視点から映画作りに着手したからだろう。それにしても、この作家は随分大胆な映画作りをしたものである。ハリー・スミスやフランク・モリスのように一つ一つの画面上にコレージュで画を構成する作者は数多くいるけれど、フィルムそれ自体をコラージュしてしまうとは。(中島崇「ブルース・コナーの新作」月刊イメージフォーラム1983年11月号より)

5時10分発ドリームランド行き
遠くを見れない男
<受付>
当日900円/会員600円

<上映作品>
コリドー
スタンディシュ・ローダー/16ミリ/24分/1969-70/音楽 テリー・ライリー

アスパラガス
スーザン・ピット/16ミリ/18分/1979/音楽:リチャード・テイテルバウム、小杉武久、他

遠くを見れない男
ピーター・ローズ/16ミリ/33分/1981/
音楽:オーネット・コールマン 

5時10分発ドリームランド行き
ブルース・コナー/16ミリ/5分10秒/1977/音楽:パトリック・グリーソン

モンゴロイド
ブルース・コナー/16ミリ/5分/1978/音楽:DEVO

アメリカは待っている
ブルース・コナー/16ミリ/4分/1982/音楽:デヴィッド・バーン、ブライアン・イーノ