アレクサンドル・ソクーロフの宇宙 Vol.4

ストーン

STONE

■監督=アレクサンドル・ソクーロフ
■脚本=ユーリ・アラボフ ■撮影=アレクサンドル・ブーロフ■美術=ウラジミール・ソロヴィヨフ ■音響=ヴラジミール・ペルソフ ■編集=レダ・セミョーノワ■製作=ユーリ・トーロホフ ■音楽=ピョートル・チャイコフスキー「エヴゲーニ・オネーギン」/ヴォルフガング・モーツァルト「ピアノ協奏曲第23番」/グスタフ・マーラー「亡き子をしのぶ歌」
■出演=レオニード・モズゴヴォイ(客人/チェーホフ)/ピョートル・アレクサンドロフ(柏l/青年)/ヴァジム・セミョーノフ 
■1993年ベルリン国際映画祭招待作品、1992年ニューヨーク映画祭招待作品 ■モノクロ/ロシア映画/1時間28分/1992年作品/日本では1995年劇場公開

●死後の世界についての会話が始まる 生い茂る木立ちに囲まれた白亜の建物チェーホフの館。夜、誰もいないはずの館に何者かが……。番人の青年が中を覗くと、薄暗い浴室で水を浴びている怪しい男。傍らでは高圧電流がブーンと音を立て、ランプが徨々と輝いている。追い出そうとする青年に抵抗する客人とは、死後の世界からよみがえった亡霊チェーホフだった。感覚をほとんど失っている様に見える客人。不意にぱたぱたと部屋を闊歩する鶴。ちぐはぐなやり取りから次第に惹かれてゆく二人。チェーホフは寒さを、空腹を感じはじめる。質素な食物を分けあう二人。「私は覚えている。オートミール、燻製の鮭、ジャム入りクレープ、……」。死後の世界についての会話。いつの間にか見つめ合い、目を閉じ、頬を触れあわんばかりに近付ける二人。「僕はあなたと……」。欲望を感じたかも知れないその瞬間、外に何者かの足音が近づき、小鳥の鳴き声が響きわたる……

●お墓の上のチェーホフの館でのSF的世界 舞台は“クリミアの真珠”と呼ばれる美しいリゾート地ヤルタ。冒頭に現れる建物こそ19世紀末、トルストイ、ゴーリキ、チャイコフスキーといったそうそうたる文化人が度々訪れたチェーホフの館。撮影はこの地で調度品や衣装などすべて当時のもの使って行われた。この徹底したリアリズムの世界に展開するのが、あの世から帰還したチェーホフと青年が遭遇するSF的世界。実はこの館、お墓の上に建てられていた不吉な場所であった。

●ゾンビのチェーホフ 『セカンド・サークル』で本物の死体を使って撮影したといわれるソクーロフ監督。この映画の主人公はまさに墓穴からよみがえった亡霊である。観客もまた登場人物の青年のようにチェーホフを理解し、親しみを感じてゆくうちにいつの間にかゾンビの世界に入っているのだ。

●文豪チェーホフ 今なお人々の心を魅了してやまない19世紀を代表するロシアの文豪アントン・チェーホフ。44年間の短い人生のうちに「かもめ」「ワーニャ伯父さん」「桜の園」など数々の傑作を残した。しかし実人生は家族との葛藤、金銭苦、病気との戦いが絶えることなく、生きていることに「居心地の悪さ」を感じていた。本当によみがえったのかも知れない、そっくりなチェーホフ役は映画初出演のレオニード・モズゴヴォイ。

●サブリミナルに訴える音響と音楽 静けさの中に響くチャイコフスキー、モーツァルト、マーラーの名曲は絶妙な効果を上げている。チェーホフがつまびくピアノはチャイコフスキーが実際に弾いていたピアノ。曲はショパンの「プレリュード─作品28-7」。曲のほんの一部を使ったり、風の音、波の音、鳥の声、電気的な雑音など潜在意識に訴えかける神秘的な音響効果は抜群だ!

●水墨画のようなモノクロームの世界 この映画では様々な特殊技術が駆使されている。色調はモノクローム、しかも中間トーンに絞り込まれた中国や日本の水墨画を思わせる階調の美しさは映画史上、例を見ない。画面内で部分的に階調を変えるなど、画面の不思議な奥行きを生みだすことにも成功している。劇映画としては前代未聞の全編歪んだ鏡の様な映像。ここにチェーホフのこの世への帰還というシュールな世界が映し出されている。

●僕はあなたと…… 『セカンド・サークル』でも主人公を演じたピョートル・アレクサンドロフ演じる青年とチェーホフの静かな部屋でのしめやかな出会い。このシーンはかってない美しいエロティックなシーンとして多くの人々の記憶に残るであろう。鶴とたわむれる青年の象徴的なシーンなど、ソクーロフの他の作品にもしばしば見られる暗示的なシーンにゲイのテイストを見ることができるかもしれない。


ビデオ・データ

■HiFi-MONO/VHS■販売専用 ■定価=税抜7,500円 ■商品番号=DAV96043


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