セカンド・サークル

 THE SECOND CIRCLE (КРУГ ВТОРОЙ)

■監督=アレクサンドル・ソクーロフ

■脚本=ユーリ・アラボフ■撮影=アレクサンドル・ブーロフ■美術=ウラジミール・ソロヴィヨフ■音楽=O・ヌッシオ「音楽と絵画」(指揮=G・ロジェストヴェンスキー)■録音=ヴラジミール・ペルソフ■編集=ライサ・リソヴァ■監修=タチヤーナ・スモロジンスカヤ■製作=V・D・シュリーク 

■出演=ピョートル・アレクサンドロフ(主人公の青年)/ナデージダ・ロドノヴァ/タマーラ・チモフェーエヴァ/アレクサンドル・ブィストリャコフ 

■1990年/ロシア映画/上映時間=1時間33分/カラー/35ミリ/スタンダード1:1.33/全8巻/2,569m/日本語字幕=児島宏子

■ソヴィエト文化基金レニングラード支部創作活動センター作品■製作参加=ゼルカロ「鏡」映画愛好者クラブ(シクティフィカル市)+トロイツキー・モスト・スタジオ(レニングラード市)+レンフィルム

イントロダクション■1990年、国際映画祭を指揮するヨーロッパ映画界は、急速に自由化の波が押し寄せてきた東側諸国の映画の紹介に熱意を燃やしていた。なかでも、旧ソ連の俊英ソクーロフの名は大きくとりあげられ、翌年2月にソクーロフが新作『セカンド・サークル』をひっさげてロッテルダム、ベルリン両国際映画祭に現れた時はメインのゲストとして熱烈な歓迎を受けたことは記憶に新しい。「この映画は今のソ連を象徴する」とソクーロフ自身が記者会見で語ったことで、大きな盛り上がりを見せたのである。
 収容所の所長だった父親の孤独な死と、何年かぶりかで家に帰ってきた息子が生まれて初めて体験する近親者の死と、葬儀の進行。この一見単純に見える物語のなかに、旧ソ連としての”父親”の死を連想することもできるだろう。この映画製作時は、ゴルバチョフ政権の衰退と、エリツィン台頭の新旧政権交代時期で、やがて1991年7月にエリツィンが大統領に就任する。*
 ソクーロフは芸術の役割は人々が人生の困難に立ち向かうための勇気を与えることだ、とソクーロフは語る。『セカンド・サークル』でソクーロフはまさにそれをなすべき物語を見つけた。彼は「死」だけに取りつかれているわけではない。社会の状況を見据えているのだ。「死」が何の意味を持たなくなったとき、その社会は完全に崩壊する。「死を意識することができるとき、ようやく人生と人間であることの意義があらわになる。さもなければ死と生の境界は無いに等しいのだから」

*ソクーロフはエリツィン大統領と大変親しく、『ソビエト・エレジー』(89年)と『イントネーションの一例』(91年)で、大統領の私生活を撮ったドキュメンタリー映画を残している。尚、ホワイトハウス襲撃クーデター事件は1991年8月、ソ連邦の崩壊は同年12月。

ストーリー■猛吹雪のなか、一人の青年が向かってくる。父の悪い知らせを受けてしばらくぶりで家に戻ってきたのだ。ベットに静かに横たわっている父親。ベットの端を叩いても反応がない。息途絶えてしまったのだ。窓辺の青年。窓の外には真紅に色付けされたランドスケープ。遥か彼方にコンクリート造りのアパートが見える。室内を現場検証する白衣姿の当局の人間たち。変死ではないと記録された。彼らと入れ替わりに現れたのは、市の保険局の男。保険局の男は、ミイラのように軽い死体を屋外に運び、雪をかぶせて消毒に努め、青年は雪の塊で死体を丹念に洗う。かすかな無線音。再び部屋に安置された死体は青年によって服を着せられた。女医とインターン。カルテを見ながら青年に尋問する。父は1926年生まれの退役軍人。皆と論争した末に除隊したと青年は語る。死因は?「皮膚を見るとガンのようだ」と青年。女医はガンと病名をつけた。彼女は青年に「葬儀屋」の電話番号を伝える。青年は、不気味な沈黙のうさに誰か知れぬ男たちと揉み合い、拷問を受ける悪夢を見る。目が覚めた時は、静かな部屋に無線音が鳴っていた。役所から葬儀担当者がやって来る。担当する仕事の義務感だけで働いているこの傲慢な「葬儀屋」は、まず父親の身分証明書をひきちぎり、続いて葬儀費用について青年と折衡する。棺桶の種類は?葬儀はオルガン付のオーケストラで?赤いカーネーションは?「葬儀屋」の見積った250ルーブルに持金が20ルーブル足りない青年は、しどろもどろに質素な葬儀を希望する。唯一青年がガンとして拒んだのは、衛生の理由で「葬儀屋」が提案した火葬についてだった。前払いの葬儀代を支払う段階になって青年は、全財産をバスの中で失くしたことに気がついた。雨漏りのひどい部屋に青年は立ちすくみ。隣室でまるで殺人現場の検証のようにして死体の周辺でせわしく動く男たちを。カメラはドア越しにとらえる。その夜、青年は再び悪夢を見た。雪景色の中に固く閉ざされた門がある。目覚めた青年は、その門をこじ開けるかのように、死体の瞼をそっと開ける。生前の何かに取り憑かれたような父親の表情がそこにあった。あくる朝、喧嘩腰で現れた「葬儀屋」は、青年に命令し棺桶をセットする。「葬儀屋」が葬儀代を立て替えたのだ。「葬儀屋」は苛だたしげに棺桶を外に運び出そうとするが、狭い廊下で思うようにはかどらない。部屋の天井には一個の裸電球。扉の外はいつの間にか夜の雪景色になっている。主人がいなくなった部屋で、遺品を点検する青年。煙草ケースなどとともに、妻のブローチや裁縫道具......。残ったベットの毛布を丸め、マットをたたむ。彼方に、火葬場の炎の暗示か、コンクリートのアパートが炎を吹き出し、煌々と燃えている。その脇に青年のシルエット。彼はやがて、何か物を炎に向かって投げ入れた。カメラはゆっくりパンを始める。父親の家の窓に炎が反射している。今は誰もいなくなった家の窓に。 「我より先に逝く親しき者は幸いなり」

解説■主人公の青年(ピョートル・アレクサンドロフ)に紛するのはレニングラード工科大学の学生、「葬儀屋」を演じる快活な女性(サデージダ・ロドノヴァ)はまったくの素人と、多くのドキュメンタリー映画を手掛けるソクーロフはここでも人物のリアルな存在感を映し出した。また舞台となったシベリアの小さな町は、ソクーロフ自身が育った土地からインスパイアされており、この物語には多くの彼の記憶が詰め込まれている。この作者の少年期の記憶と、眠りから覚めたようなリアル感が常に交差し、映画は常に幻想と覚醒の間を往き来する。筋金入りの共産党屋で収容所の所長だった父親と、父の思想に反発し家を飛び出した息子の帰還。旧体制化の強固なシステムだけが形骸化して、役所の葬儀担当者とは名ばかりの横暴な女性。現場検証にあたる衛生係は、まるで殺人現場の捜査のように振る舞う。この「死の舞踏」というべき不条理な儀式は、多かれ少なかれ現代社会の様々な地域で行われているのではないかと、ソクーロフは推測する。


ビデオ・データ

■HiFi-MONO/VHS■販売専用 ■定価=税抜7,500円 ■商品番号=DAV96042



TOP OF THE PAGE

IF VIDEO HOME PAGE

ビデオ購入方法