「世界で最も危険な街」とされるメキシコの都市シウダー・フアレス。およそ100万の人口を抱えるこの街では、年間3,000件を越す殺人事件がある(2010年3,622件)。地元警察官として殺人事件の現場で証拠品を集める男リチ・ソト。彼と彼の同僚警官たちは、報復を恐れて黒い覆面を被って事件現場に出動する。メキシコでは起きた犯罪の3%しか捜査されず、99%の犯罪は罪に問われること無く放置される。実際、下手に捜査を続けると命が危ない。メキシコ国内で強大な力を持つ非合法の麻薬密輸カルテルが、それらの事件の背後にいるからだ。彼らは警察組織や軍を買収し、捜査を阻む。組織に従わないものは次々と処刑される。リチの机の上には、現場検証で集めた証拠物品の山が積み上げられていくだけ。周りの人々は「銃弾コレクター」と彼を皮肉まじりに揶揄する。1年間で彼の同僚警官が4人も殺害されている。真面目に職務をこなす警官にとって、フアレスは非常に危険な街なのだ。国境をまたいで目と鼻の先にあるアメリカ合衆国の都市エルパソは、年間殺人件数5件、全米で最も安全な街だ。家族は危険なフアレスを離れてアメリカに行くようリチに強く勧めるが、彼の故郷を想う気持は強く、街を少しでも平和にしたいとの信念を持ち、決して離れようとは思わない。「この街にあるのは、死と暴力だけじゃない。愛もやさしさも気遣いもある。この仕事で私は街を救いたいんだ。」
麻薬カルテルのボスたちは、“ナルコ・コリード”という、現在メキシコ国内だけでなくアメリカ合衆国でも人気を集める音楽ジャンルで、英雄として讃えられている。ナルコ・コリードの歌手、エドガー・キンテロは、その人気に乗ってのし上がっていく若者だ。麻薬ボスたちは彼を呼びつけ、自分の武勇伝を話し、彼に歌にしてもらう。歌が気に入ればボスたちはエドガーに1万ドルを超える多額のチップを払う。エドガーは彼の所属するバンド“ブカナス・デ・クリアカン”でCDアルバムをリリースし、セールスは10万枚を超えて人気急上昇中だ。CDは飛ぶように売れ、ライブハウスはお客でいっぱい。レーベル主催者は「俺たちは次のヒップホップになるのだ」と息巻く。ティーンエイジャーたちに人気のこの音楽ジャンルの歌詞の内容は、殺し、拷問、誘拐、麻薬密輸にまつわる暴力的なもの。ライブのステージ上では、バンドメンバーがアサルト・ライフルやバズーカ砲を持って登場する。麻薬王たちを英雄視するその音楽は、メキシコ国内では放送禁止となっているが、一方でいまや彼らのアルバムは、全米のウォルマートでも販売されビルボードにもランクインしている。メキシコ系アメリカ人のエドガーはロサンゼルス育ち、実際にはインターネットでしかメキシコの麻薬カルテルのことを知らない。本当のギャングたちに会いたいと、彼はメキシコ最大の麻薬密輸組織、シナロア・カルテルの本拠地、クリアカンへと旅立つ。リチとエドガー。暴力が蔓延する狂った世界に身を置きながら、正気を保って、自分の住み慣れた街を必死に守り抜こうとする男と、麻薬が生み出す莫大な富の夢を体現し、成功を掴もうとする男。この映画はそれぞれ対照的な人生を送る二人の男の物語でもある。