Q:まず、監督ご自身についてと、なぜこの作品を作るに至ったかを教えてください。
私はイスラエルに生まれ、1999年に、ニューヨークに移り住みました。私は20年間フォトジャーナリズムに従事しており、軍事衝突とその社会に対する影響について撮影してきました。2008年から、メキシコのシウダー・フアレスの暴力を写真に収めるようになり、2年間暴力の記録を撮影し続けて、すっかり圧倒されてしまいました。そして、死や暴力、犯罪現場の写真を見せるだけでは、私が伝えたい物語を伝えきることは出来ないと考え、映画を撮ることに決めたのです。
Q:麻薬戦争を扱った他の映画作品との違いはなんでしょうか。
これまで麻薬戦争について作られたものは、全てインタビュー形式のドキュメンタリーです。それに時々借りてきた資料映像が挟まれるたぐいのものでした。『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』はシネマ・ヴェリテ的なドキュメンタリーで、麻薬戦争に巻き込まれた二人の登場人物の人生を、一人のカメラマンが追っています。この映画は、観る者を現場のど真ん中に連れて行きます。獣のはらわたのさなかに。フアレスの街角からLAのナルコ系のクラブ、それからシナロアの麻薬ボスのリヴィング・ルームまで。本作品はメキシコの麻薬戦争の内情にかつて無いほど入り込んで撮影しています。

麻薬戦争は一説に6万人を超えると言われる命を奪っています。犠牲者の数がうんざりするほど繰り返される一方で、麻薬取引によって生み出される、より広い社会的なリアリティーについては、ほとんど語られていません。この作品では、国境の街で生き抜く厳しさを描くだけでなく、麻薬取引に不可避的に関わったり、影響を受けたりしている何百万人ものメキシコ人とラテンアメリカ人が分かち合う文化や、「ナルコ・ラグジュアリー(麻薬密輸がもたらす富)」に対する欲望についても描いています。
Q:このドキュメンタリーを完成するのに作家として一番困難だった部分は何でしょうか。なにか想像しなかったような事態はおこりましたか。
まず第一の苦労は、この作品の可能性を信じて、製作チームに参加してくれる人たちを捜すことでした。プロデューサーを探して、資金を投入してもらったのは大きかったです。同様に私とフアレスに一緒に行ってくれる録音技師を見つけられたことも。彼らと編集マンがチームに加わって、プロジェクト自体が良い形で進行できるようになりました。

それ以外の苦労は、取材しながら安全を保つことでした。登場人物たちを通して麻薬戦争の神髄に近づこうといつも試みていたので、彼らの完全な信頼を得ることが重要でした。彼らの信頼を得たあとは、自分たちが撮影したくないことは何なのかを明白にしなければいけませんでした。安全を守るため、そして他の人を危険な目に遭わせないために、どこかできっぱり線を引く必要がありました。撮影時だけでなく、編集室でもその問題は現実化しました。誰かを危険にさらす可能性があると我々が考えた場面は、結局映画には使いませんでした。
Q:あなたは写真家として非常に印象的な仕事を残しています。初めて映画というものを手がけてみていかがでしたか。
長編ドキュメンタリーを作ることは何て複雑で疲弊するものなんだ、と思いましたよ。報道写真は非常にミニマルな表現なのです。一人で行うものですし、シャッターを押せばだいたい仕事は終りです。映画というのは全く別のものです。編集作業に至るまで一緒に仕事する人の数も多いですし、何度も映画の物語について考え、形作っていかなければなりません。この二つの表現は非常に異なっていて、私はこの作品を製作しながら映画作りについて学んでいきました。一方で報道写真というのは、映画作りの入門として非常に役に立つのです。わたしの現場での経験、つまり恐怖と危険のなかで撮影すること、報道で培った私のものの考え方、取材対象の見つけ方、取材の仕方、そしてもちろん光と影の捉え方の感覚。それら全てが、この作品に寄与しました。
Q:この映画の観客に何を感じて欲しいですか。この作品を通して特に伝えたい希望や感情がありますか。
感情といえば、私はこの映画を見た人に、私がこの題材を取材していた4年間に感じていた無力さや、やるせなさを胸に映画館を去ってほしいと思います。麻薬戦争が、自分と関係のないどこか遠い国の出来事で、国境の先でのみ起きていることだと思わないでほしい。これは我々の問題ですし、我々もこの問題の一部を成しているのです。問題を否定しても、その問題が消えてなくなることは無いのだと理解して欲しい。若い世代は、現状に色濃く影響を受けます。組織犯罪こそが自分たちが浮上する唯一の道だと信じるような、そんな世代を我々は残したいでしょうか。機能していない政治状況を見過ごしながら、状況が良くなっている、などと言いつづけることなどできるでしょうか。
監督:シャウル・シュワルツ Shaul Schwarz
1974年イスラエル生まれ。イスラエル空軍在籍時に写真を始める。除隊後イスラエルとヨルダン西岸の報道に身を投じる。現在ニューヨーク在住。 2004年にはハイチ蜂起の報道により、2つの世界報道賞を受賞。2005年にはガザ回廊の入植者をテーマとした写真でペルピニャンの国際報道写真祭ヴィザ・プール・リマージュで最高賞ヴィザ・ドール賞を受賞。2008年ケニア暴動の報道写真でアメリカ海外記者クラブによりロバート・キャパ賞を受賞。アメリカのタイム誌、ニューズウィーク誌、ナショナル・ジオグラフィック誌などで作品をコンスタントに発表している。2013年、初のドキュメンタリー映画『皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇』をベルリン国際映画祭にてプレミア上映。

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