安堵の海
Sea of relief
福山庸治
Text & illustration by Fukuyama Yoji
渋谷や新宿などの駅前に降り立つ。

そこには夥しい数のヒトがうごめいている。逆の言い方をすれば、ヒトしか見あたらない。

注意して探せば、鳥や昆虫なども生息しているのだろう。

だが、ヒトの圧倒的な頭数の前には、その存在感も薄い。

ヒトの個体数「1」は、生身のそれではない。ヒトは鳥や昆虫と違い、

建物や電車やクルマや衣服や鞄などの、モノとセットになって初めてヒトの「1」である。

ヒトの「1」が動けば、付随するたくさんのモノが同時に動く。

ヒトの「10,000」が動けば、更に無数のモノが移動する。

そうやって、ヒトとモノとが川を作り、海となって、都市から溢れていく。

ヒトはモノに惹かれ、モノにくるまり、モノに安堵する。

安堵の海、そのうねりの中をヒトは、胎盤のようなカプセルに包まれ、漂流していく。

20世紀末。



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