韓国インディペンデント映画2007 時代を射る作家の眼



 韓国映画、独創力の源流を特集する「韓国インディペンデント映画2007」を8月25日(土)からシアター・イメージフォーラム(渋谷)で開催





 2004年にスタートした「韓国インディペンデント映画」を、今年も8月25日から31日まで渋谷のシアター・イメージフォーラムで開催いたします。過去3回にわたり、本映画祭は、世界を席巻する韓国映画の源流とも言うべき韓国インディペンデント映画の活況を紹介してきました。

 今年も、さまざまな問題に向き合った意欲作を7プログラム、34作品で構成して上映いたします。プログラマーは、第1回目から担当し、韓国、日本、中国など東アジア映画に世界で最も精通し、数多くの新しい才能を欧米等に紹介し続けてきたトニー・レインズ氏(イギリス)。

 膨大な候補作品の中から厳選された、長編、短編、アニメーション、実験映画など、魅力溢れる多彩な作品群をぜひお楽しみください。
韓国インディペンデント映画2007
 
概要
名  称: 韓国インディペンデント映画2007 時代を射る作家の眼
趣  旨: 韓国の独創性に溢れるインディペンデント映画を日本に紹介することで、日韓相互の文化交流の促進と友情の増進を図り、両国の映像文化がより豊かになることを目的とする。
会  期: 2007年8月25日(土)〜8月31日(金)
会  場: シアター・イメージフォーラム(東京都渋谷区渋谷2-10-2)
構  成: 作品上映(7プログラム/34作品)とパネル・ディスカッション
主  催: イメージフォーラム
共  催: 駐日韓国大使館 韓国文化院
支  援: 文化庁
特別協力: 韓国映画振興委員会(KOFIC)
料  金: 当日1回券 1,200円 / 前売1回券 1,000円
 
イントロダクション
政治意識と世界の終焉

 今年の「韓国インディペンデント映画」で上映する作品群は、韓国インディペンデント映画の世界で勢いのある監督たちがあらゆる難題と向き合った意欲作ばかりだ。難題とは、例えばダンスすることで自殺衝動を回避することができるのか?高い政治意識を持ちながら、かつ幸せでいることは可能なのか?汚染された地球の生態系は、自力でよみがえることができるのか?などなどである。

 現在、世界中で最も激しい変貌をとげつつある社会に生きている韓国の映画作家たちは幸運だ。韓国社会の変化と発展の速度は中国を上回る。当然のことながら、それは韓国文化にも大きな影響を与えた。特にインディペンデント系の映像作家たちが示した反応は、非常に刺激的でクリエイティブだ。すばらしいフィクション作品や、はっとするようなノン・フィクション、そしてもちろん特筆すべきアニメーション作品が作られ、過去数年の間には、実験映画の領域でも注目に値する発展が見られた。より多くの作家が、新しい作品の形態と映像言語の探求に取り組んでいる真っ只中にいる。

 今年は、上映作品全体に通じるテーマはない。しかし、これらの作品群に繰り返し現れてくる共通項が二つある。一つは、政治意識の問題。昨今の日本のインディペンデント映像作家は、もっぱら自分たちを“非政治的”だとみなしているが、韓国ではそうではない。かといって、韓国の映像作家たちの多くが政治的なスローガンを声高に叫んだり、政治行動に参加しているというわけでもない。むしろ彼らは、自分の生活の範囲内にある政治問題を認識し、そこにある問いを投げかける。したがって、彼らの作品は観客が自分の問題として考えやすい、おもしろくて皮肉のきいた客観性のあるものになる。例えばドキュメンタリー作品『ウリハッキョ〜われらの学校』では、韓国出身のキム・ミョンジュンが、北海道の在日朝鮮人学校で、北朝鮮からの移民の生徒たちに囲まれる。彼は、世界中を緊迫させる南北の関係がこの学校という小さな世界にも存在するのではないかと懸念する・・・
 あるいは、イ・チョンピルの『ハートに火をつけて』で描かれる、北朝鮮のロック・ファンの不幸。彼は、クィーンやドアーズの音楽が自由に聴ける国への亡命を望んでいる。

 もう一つの顕著な共通項は、もちろん、“世界の終焉”である。地球という惑星は、今や破滅への道をゆっくりと突き進んでいる。私たちはこの状況にどう対処すればいいのか。無反応か?エコ・アクティビズムか?あきらめの苦笑か?それともチェ―ンソーか?
 特別プログラム「黙示録についての短い話」では、世界の終末を扱った作品をいくつか集めた。その中には、ある家庭の中の問題を描く作品(それもまたある小さな一つの世界の終わりである)もあれば、世界規模の、さらには宇宙規模の“終焉”を描いているものもある。すべての作品が刺激に満ち、大半はブラックなユーモアに彩られている。
 冒頭で述べたように、韓国のインディペンデント映画は幸運な状況下にある。これらの作品の上映が、それを確かめるチャンスになることは間違いない。


トニー・レインズ
(映画批評家・映画作家、韓国インディペンデント映画2007プログラマー/イギリス)
 
プログラム内容
●A (1作品/100分)

『終わらせよう!』
監督:ファン・チョルミン 2006年/ビデオ/100分


 ある密室で繰り広げられる印象的なドラマ『スパイするカメラ』の監督ファン・チョルミンが、新作『終らせよう!』で選んだ舞台は、旅の空の下。あらゆる名作ロード・ムービーの例にもれず、本作の中でも、共に旅する者の間の張りつめた関係が、道中、さまざまな人に出会い、変化していく。しかし、この3人―「ヨアキン」という女性と「LA」「ヘボレ(無気力)」とそれぞれ名乗る男性―には共通点がある。3人とも、道の終わりまでたどり着いたら、死のうと考えているのだ。魂の危機と救済を描いた傑作。
終わらせよう!
 
●B (1作品/85分)

『かすかに』
監督 : キム・サムリョク 2007年/ビデオ/85分


 テグを拠点とする映像作家キム・サンリョクは、自身初の長編映画できわめて現代的な社会現象に文学的なアプローチを試みた。題材となるのは、思春期を終らせる準備ができず、責任を持たない青春時代を長引かせようと必死の抵抗を試みるヤング・アダルトたち。主人公は、偶然インディー映画のプロデューサーになってしまうが、それが彼に心理的、性的、経済的な影響を及ぼす。全編を通して悲しく美しく、巧みに構成されたロング・ショットで語られる本作は、インディー映画作家のうちに秘めた哀しみをもまた照らし出す。
かすかに
 
●C (2作品/138分)

『ウリハッキョ〜われらの学校』
監督:キム・ミョンジュン 2007年/ビデオ/131分
『右翼青年ユン・ソンホ』
監督 : ユン・ソンホ 2004年/ビデオ/7分

 キム・ミョンジュンによる、北海道にある在日朝鮮人学校の3年間の記録は、ソウルで多くの人々の関心を集め、ドキュメンタリー映画としては希有な一般劇場での上映を実現させた。本作は、失われつつある存在としての在日朝鮮人学校(60年前に日本全国で540校あった朝鮮人学校は現在では60校まで減少)をとらえつつ、長年のテーマである国家と個人のアイデンティティの問題に新しい光を投げかける。世界的には未だ解決されない問題として残る韓国と北朝鮮の間の隔たりも、学校内では軽々と乗り越えられる。親密さと客観性の間で巧みなバランスの上に立つ本作は、非常にハイ・レベルな観察映画と言えるだろう。ユン・ソンホ監督による歪んだ自伝作品『右翼青年ユン・ソンホ』を併映。
ウリハッキョ〜われらの学校
 
●D 短編フィクション(6作品/111分)

『ペインター』
監督:パク・ヨンギュン 2005年/ビデオ/7分
『枠』
監督:キム・チョンウク 2006年/ビデオ/19分
『10分間の休憩』
監督:イ・ソンテ 2007年/35ミリ(ビデオ版)/27分
『親愛なるロゼッタ』
監督:ヤン・ヘフン 2007年/35ミリ(ビデオ版)/10分
『軌跡』
監督:ソル・インジェ 2007年/35ミリ(ビデオ版)/19分
『ハートに火をつけて』
監督:イ・ジョンピル 2007年/ビデオ/29分


 この刺激的な6作品はすべて、韓国の急速な社会的・心理的成長を背景として、その中での性のもつれや政治的ねじれを題材にしている。『ペインター』は、シュールレアリズム絵画と社会風刺画との出会いをウィットたっぷりに描写し、『枠』は、アート写真に暗に含まれる性的な要素を脱構築する。『10分間の休憩』は、ペクリョン島を舞台として、秘密と嘘、そして軍の演習からの脱走について語る。本年度のカンヌ映画祭でも上映された『親愛なるロゼッタ』は、禁断の父―娘関係をショッキングに描く。日本の占領時代に始まった現代社会の不正を暴く『軌跡』。そして、『ハートに火をつけて』では、平壌からやってきた若いロック・ファンが、移民として韓国で不確かな未来に直面する。
ペインター/10分間の休憩/親愛なるロゼッタ
 
●E オルタネイティブ・アニメ(8作品/67分)

『人間テトリス』
監督:シン・ミリ 2005年/ビデオ/3分
『足』
監督:イ・ヘヨン 2007年/35ミリ(ビデオ版)/8分
『雨の日に歩く』
監督:チェ・ヒョンミョン 2006年/ビデオ/5分
『お婆ちゃん』
 監督:キム・ドフン、チェ・ユンギョン、オ・ジウン、
キム・ジョンウ、キム・ヒョンジュ、イ・ジナ
2006年/ビデオ/9分
『りんご』
監督:ジョン・ムン 2006年/ビデオ/5分
『つぶやき』
監督:チーム・アニ工場(チェ・ジェソン、チョン・ヒョンギュ、
キム・ヨンマン、チン・スンボム、ハ・ナウォン
 2006/ビデオ/6分
『再会』
監督:パク・ジョンギュ 2006年/ビデオ/9分
『公転軌道』
監督:イ・ジュンス 2007年/ビデオ/22分


 大人のためのアニメ8作品は、そのほとんどが韓国映画アカデミー(KAFA)、韓国芸術綜合学校(KNUA)、あるいはゲウォン(桂園)造形芸術大学の優秀なアニメーション学科出身の作家によるもの。そのうち2作はアニメーションと実写を画期的な方法で組み合わせている。『人間テトリス』は、残酷な映像のジョーク。「なぜ、足はそれだけで立つことができないのか?」という疑問を投げかける『足』。アヌシー国際アニメーション・フェスティバルで受賞した『雨の日に歩く』は、映画史上もっとも奇妙な、ジーン・ケリーへのオマージュ。『お婆ちゃん』の監督チームはまったく新しいバージョンの万物の創造と『創世記』を提示し、『りんご』では、皮肉をこめた「ハイテク版」エデンの園の誘惑が再考される。『つぶやき』は、アニメーション版フィルム・ノワールとも言うべき恐ろしいサイコ・スリラー。『再会』は、ソウルの夜のストリートで起こるセクシャル・バイオレンスを写実的な線画で描く。そして、『公転軌道』は、宇宙で働く男が、象徴的な父への義務と彼の実の父親への愛との間で選択を迫られる、というSF的寓話。
雨の日に歩く/お婆ちゃん
 
●F エクスペリメンタ(9作品/111分)

『代々木公園』
監督:ソン・クァンジュ 2007年/ビデオ/15分
『デジャヴ1106ジュネーヴ』
監督:キム・ウンジン、キム・ジョンウン 2006年/ビデオ/15分
『ダンインリ発電所』
監督:ソ・テウォン 2004年/ビデオ/14分
『ソウル駅』
監督:ソ・テウォン 2006年/ビデオ/12分
『自殺は生きること』
監督:オ・セヒョン 2006年/ビデオ/6分
『曇り雨もよう』
監督:クォン・アルム 2006年/ビデオ/6分
『ポートフォリオ』
監督:ユン・ソンホ 2006年/35ミリ(ビデオ版)/18分
『我が国のホワイトハウス』
監督:チョン・ユンソク 2006年/ビデオ/20分
『ホー・チ・ミン』
監督:チョン・ユンソク 2007年/ビデオ/5分


 昨今の韓国における実験映画の新しい動きを伝えるプログラム。ソン・クァンジュの『代々木公園』は、彼女が「韓国インディペンデント映画2005」のために来日した際に撮影され、あとから大江健三郎の言葉が付け加えられた。『デジャヴ1106ジュネーヴ』の中で並列される映像と時間軸は、ときにお互いにつながりを持つようにも見える。『ダンインリ発電所』は、葛飾北斎の「富嶽三十六景」の手法を用いて、韓国で最も古い発電所を描き、『ソウル駅』は日本による占領下時代の名残である建築物に思いを馳せる。『自殺は生きること』は、黒と白/生と死の弁証法を展開し、『曇り雨もよう』はエロチックなレズビアン・ポエムを語る。釜山国際映画祭で受賞した『ポートフォリオ』は、信心深い母親と気まぐれな息子との間の隔たりに切り込んでいく。『我が国のホワイト・ハウス』は、韓国における「アメリカ」の概念に疑問を投げかけ、『ホー・チ・ミン』(ハン・デスの楽曲が元になっている)は言語と、すでに与えられた「歴史」の認識に疑問を投げかける。
デジャヴ1106ジュネーヴ/ダンインリ発電所/曇り雨もよう
 
●G 黙示録についての短い話(7作品/96分)

『世界のおわり』
監督:ナムグン・ソン 2007年/ビデオ/21分
『対話』
監督:ソンさんの家(クォン・マンジン、キム・ジヒュン、ソン・ジユン)
 2006年/ビデオ/5分
『核分裂家族』
監督:パク兄弟(パク・スヨン、パク・ジェヨン) 2005年/35ミリ(ビデオ)/21分
『リターン』
 監督:チャン・チャンホ、ユ・ゴンギ、ナム・スンピョ、チャン・ウジン
 2006年/ビデオ/14分
『シンダンドン、チェーンソー、夫婦喧嘩』
監督:リュ・グンファン 2006年/ビデオ/11分
『地球の物質』
監督:キム・ジンマン 2007年/ビデオ/11分
『自殺変奏曲』
監督:キム・ソン、キム・ゴク 2007年/16ミリ(ビデオ版)/13分


 地球の最後の日が、爆発ともに訪れるのか、それともすすり泣きで終るのかは定かではないが、私たちを脅すこれらの短編作品(その大半がブラック・ユーモア)は、その日に向き合う準備ができているようだ。『世界のおわり』の中で、若者たちは「おわり」へのカウントダウンに対して違った反応を示す。アニメ作品『対話』は、コミュニケーションに対しての黙示録的観点を表し、『核分裂家族』では裏庭の核爆弾に対処しなくていけない人々が描かれる。コンピューター・アニメーションの傑作『帰還』では、巨大な死のマシンの中の1つの歯車の生涯が語られる。『シンダンドン・チェーンソー、夫婦喧嘩』は、ある小さな世界が終焉に至るまでを考察する。『地球の物質』は、末期的に汚染された地球が、自ら再生するさまを描いた道教的寓話アニメーション。そして、『自殺的変奏曲』は、映像言語そのものが神経衰弱に悩まされ、パニック障害を起こしているかのような作品。
/対話/シンダンドン、チェーンソー、夫婦喧嘩/自殺変奏曲
 
パネル・ディスカッション
 上映作品の監督の中から、キム・サムリョク監督、キム・ミョンジュン監督、ユン・ソンホ監督の三人が参加し、韓国インディペンデント映画、および韓国映画の現況を明らかにし、その未来について語る。プログラマー、トニー・レインズ氏が捉える今回のプログラムの共通項「政治意識」と「世界の終焉」。幸福な映画的環境とは何なのか。同氏の視点と三人の監督の洞察がどのように交錯するかが興味深い。司会はトニー・レインズ氏。

出席者(予定)
※チラシでお知らせしていましたユン・ソンホ監督は都合により出席できなくなりました。ご了承ください。

キム・サムリョク監督 キム・ミョンジュン監督 ファン・チョルミン監督
キム・サムリョク監督 キム・ミョンジュン監督 ファン・チョルミン監督
(『かすかに』) (『ウリハッキョ〜われらの学校』) (『終わらせよう!』)
 1979年、大邱(テグ)生まれ。慶北(キョンブク)国立大学新聞放送学科卒業。東国(トングク)大学大学院映画映像専攻。2000年の『On the Way to Separate』以来、短編映画を制作。『かすかに』が初の長編作品。
 1970年、釜山(プサン)生まれ。1999年、漢陽(ハンヤン)大学演劇映画科卒業。『冬眠』(1998、チョン・ユンチョル)、『花の島』(2001、ソン・イルゴン)といった作品で撮影監督を務める。その他の監督作品に『一つのために』(2003)がある。
 1960年生まれ。1996年ベルリン映画・TVアカデミー(DFFB)卒業。
『ファック・ハムレット』(96)がベルリン映画祭ヤング・フォーラム部門に招待された。
また、『スパイするカメラ』(04)は、「韓国インディペンデント映画2005」ほか、世界各地の映画祭で上映された。

 
タイムスケジュール

 

8/25(土)

8/26(日)

8/27(月)

8/28(火)

8/29(水)

8/30(木)

8/31(金)

11:45

A
(100分)

D
(111分)

A
(100分)

G
(96分)

E
(67分)

D
(111分)

F
(111分)

2:15

パネル

E
(67分)

C
(138分)

F
(111分)

D
(111分)

G
(96分)

B
(85分)

4:45

C
(138分)

F
(111分)

D
(111分)

C
(138分)

F
(111分)

B
(85分)

C
(138分)

7:15

B
(85分)

G
(96分)

B
(85分)

E
(67分)

G
(96分)

A
(100分)

A
(100分)