舞台は、南インド・ケーララ州最奥のジャングルに位置するとある村。さえない肉屋の男アントニが一頭の水牛を屠ろうと鉈を振ると、命の危機を察した牛は怒り狂い、全速力で脱走する。ディナー用の水牛カレーや、婚礼用の料理のために肉屋に群がっていた人々が、慌てて追いすがるも、まったく手に負えない。暴走機関車と化した暴れ牛は、村の商店を破壊し、タピオカ畑を踏み荒らす。アントニは恋心を寄せるソフィに愛想を尽かされ、自分の手で牛を捕まえて汚名を返上しようと奮闘する。農場主や教会の神父、地元の警察官、騒ぎを聞きつけた隣村のならず者らを巻き込み、村中は大パニック。一方、かつて密売の罪で村を追放された荒くれ者クッタッチャンが呼び戻されるが、猟銃を携えた彼は、かつてソフィをめぐっていがみあい、自分を密告したアントニを恨んでいた。やがて牛追い騒動が、いつしか人間同士の醜い争いへと大きくなっていく…。
監督は驚くべき視覚的トリックと、奇想天外のアイデアでインドにおいてカルト的な人気を集めるリジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ。最新作である本作は本年度アカデミー賞国際長編映画賞インド代表作品に選ばれ、国内の賞レースを席巻している。またこの映画の主役とも言える水牛は、ほとんどCG技術を使わず、実物の牛とアニマトロニクスを駆使して、圧倒的な恐怖と躍動感をもたらせている。クリエイティブなビジュアル&サウンド・デザインと、圧巻のモブ演出で世界の観客の度肝を抜いた牛追いスリラー・パニック映画、“丑年”の2021年、ついに日本公開!!!
監督:リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ
1978年生まれ。インド、ケーララ州出身。父は著名なマラヤーラム映画・舞台俳優。ケーララ地方のローカルな物語を、実験的なジャンル映画に落とし込む手法と、物語のノンリニア性、暴力とカオスの美化、特徴的なロングショットで特に知られている。ゴア・インド国際映画祭の銀の孔雀賞、ケーララ州最優秀監督賞ともに2度受賞。批評的評価と大衆的な人気の両方を獲得している現代インド映画において最も影響のある監督の一人である。
『Nayakan』(2010)|『City of God』(2011)|『Amen』(2013)|『Double Barrel』(2015)| 『Angamaly Diaries』(2017)|『Ee.Ma.Yau.』(2018)|『ジャッリカットゥ 牛の怒り』(2019)|『Churuli』(2021)
リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ監督インタビュー
作品に通底するテーマ“群衆”について
『ジャッリカットゥ 牛の怒り』の脚本は、時間が進行するにつれ群衆が増大していくというものでした。私はこの映画に二つのキャラクターを見出したのです。第一に野獣。そして第二に群衆。その群衆はやがて映画の終わりには巨大な獣へと成長します。私は群衆を作品で美しく撮った監督たちをリスペクトし、そこから学びました。その点で言うなら、黒澤明の『乱』(1985)とコスタ=ガヴラスの『Z』(1969)は私のお気に入りの2本です。
空間と場所について
映画監督として私は、作品のロケーションを一番重要なキャラクターと考えています。映画のロケ場所を決定する前に、場所の見え方をじっくりと探求するのが大好きです。その場所が、私の中で育って息づくようになると、映画の他の登場人物たちと同じように、土地が自分を表現し始め、最終的には物語の最も重要な部分を構成するようになります。森の深い緑、霧、冷気、大地の隆起や谷間、そうしたもの全てがこの作品には重要でした。
原作のS・ハリーシュのマラヤーラム語短編『マオイスト』は、丘の上の寂れた街を舞台にしています。この作品の舞台としてイドゥッキ地区の丘の街カッタパナ以上にいい場所はないと思っています。
牛の造形について
牛のキャラクターを造形するため、私たちは70年代に回帰することにしました。オールドスクールな技術を選び、VFXを最低限のものにしようとしたのです。例えば『ジョーズ』を観れば、アニマトロニクスで作られたサメは、本物のように見えます。何年か経った今見ても、どのVFXで表現された生き物より怖く感じます。故郷で初めて『ジュラシック・パーク』を、映画館の後ろの方で観た時に感じた寒気の感覚を今でも憶えています。私たちはスピルバーグから学んだのです。この作品の準備中、スタッフと一緒に『ジョーズ』と『ジュラシック・パーク』のシーンを何度も繰り返して観ました。
※監督インタビューは劇場で販売するパンフレットに全文掲載します

チェンバン・ヴィノード・ジョーズ
カーラン・ヴァルキ役
アントニ・ヴァルギース
アントニ役
サーブモーン・アブドゥサマド
クッタッチャン役
シャーンティ・バーラクリシュナン
ソフィ役
牛追い競技・ジャッリカットゥについて
ジャッリカットゥは、牛を群衆の中に放ち逃げようとする牛の背中の大きなコブに参加者が両手で捕まり続けることを競う牛追い競技である。参加者は、コブにしがみつき牛が逃げようとするのを力ずくで止める。また、地域によっては牛に取り付き、角につけられた旗を奪う。 インドのタミル・ナードゥ州を中心に2000年を超える歴史を持つと言われ、毎年ポンガルという収穫祭の頃に行われる。タミル・ナードゥ州ではプロリーグも存在している。 非常に危険な競技で、2008年から2017年の間では43人の人間、4頭の牛が犠牲となっている。動物愛護の観点からジャッリカットゥは2014年に一旦インド政府により禁止されたが、2017年には百万人を超える民衆が参加する大きな抗議運動が起こり、タミル・ナードゥ州では改めて競技開催が認められることになった。
90分のエクスタシー連続叩きつけ!大好きな作品だ!
アリ・アスター
『ミッドサマー』監督 (Twitter @AriAsterより)
95%フレッシュ!
ロッテントマト
『アンストッパブル』だ!しかし列車ではなく牛!!エキサイティングでありえない体験。角を掴んで離さざるべし!
バリー・ハート、グローブ・アンド・メール
驚きとともに目が離せなくなる作品。徒歩版『マッドマックス 怒りのデスロード』!そこにスピルバーグ『ジョーズ』のエッセンスが加わる。撮影で人が死ななかったのが不思議のテンション。
ラファエル・モタマヨール、ロッテントマト
アドレナリンに溢れた、熱狂の社会派ドラマの渦。洗練されたテクニックが、他にはない毒のある奇妙さを生む。男性性は破壊され、見せかけの傲慢さは地獄へと落とされる。人間の残酷さの狂乱が、やがて獣的な野蛮へと無慈悲に変容していくこの映画は、カルト的なフォロワーを生むはずだ。
ジェシカ・キアン、ヴァラエティ
インドのジャングルで奔放に荒れ狂うテストステロンについての容赦ない告発。見事な手つきで観るものを幻惑するアクション。それらを両立させていている本作は、今年最大の発見だ。世界を見渡してもリジョー・ジョーズ・ペッリシェーリのような監督はいない。世界は、この映画を観て自分たちに何が足りないのかを知るだろう。
J・フルタード、スクリーン・アナーキー
牛追いという形式を借りた、小気味良いポリティカル・アレゴリー。政治性を、このようなレベルで映画に落とし込むことができる映画監督がもっといたら良いのにと思わせる。
マシュー・モネーグル、オースティン・クロニクル
『ジャッリカットゥ 牛の怒り』公開記念
第1弾:「カレー哲学たんとカレーシェアハウスで水牛カレー&ケーララ料理を作って食べる」
『ジャッリカットゥ 牛の怒り』公開記念
第2弾:「日本一牛に詳しい(?)映画監督・村上賢司と牛三昧トーク」
『ジャッリカットゥ 牛の怒り』公開記念
第3弾:「知られざる南インド・サブカルチャー:映画とポップ・ミュージック」