
22/1 チェクリックおじいさんの家
葬列がチェクリックおじいさんの前を通る。彼はしゃっくりをしている。目の前を見つめたままだ。葬列は去るが、彼はそのまま。突然、彼のしゃっくりが止まる。彼自身も驚いているようだ。深い沈黙が訪れる。全てが静まり、動物たちでさえ動くのを止めたようだ。
22/2 チェクリックおじいさんの家-墓地
そこで地面が揺れはじめる。食堂のテーブルがカタカタいう。ワインがグラスの中で回っている。おばあさんの家では壁にひびが入る。養蜂家の家の棚の食器が動いている。工場のミシンは大きな音を立てて揺れ、製粉所では黄色い実が新たな山を形成し、助産婦の家の、おばあさんの頭の脇にある小瓶のハエは狂ったように震えている。動物たちは最後の審判から逃げ出そうとしている。子鹿は小麦畑を逃げていき、兎は森の中に身を隠そうとする。鶏小屋の中はパニックで、ラプシックの家のつながれたキツネは、恐れおののいて檻をひっかいている。
墓場でも地震が起きている。今掘られたばかりの墓の上で、ある植物がゆっくりと土から生えてくる。葉が伸び、つぼみが顔を出し、最後に実がなる。幸せそうな顔をした老女が野原で摘んでいたのと同じ種類の植物だ。どの場所でも大きな揺れが起きている。釣り堀の足場が水のなかに崩れ落ちる。診療所の薬瓶は生き物のように跳ねている。教会の鐘さえ鳴りはじめる有り様だ。そう、世界の終わりがやってきたのだ。
22/3 チェクリックおじいさんの家-牧草地
そこで最新鋭の航空戦闘機が村を飛びこしていく。タザールの米軍基地から飛んできたのだ。最初は野原の向こうの点にしか見えないが、近づくに連れその形がはっきりする。草を食んでいた羊たちは集まってくるが、飛行機が地球上のものとは思えない轟音を出して飛び去ると、四方へ散り散りに逃げていってしまう。羊飼いの女の子は野原に一人取り残される。
22/運河 チェクリックおじいさんの家-運河
戦闘機はシオ運河の下をくぐると、機首を上にあげる。橋を渡っていた警官は自分の目が信じられない、といった様子だ。
22/4 チェクリックおじいさんの家-飛行機の中
パイロットはマスクを外し、危機一髪のスタントをやってのけ、心から笑う。
22/5 チェクリックおじいさんの家
再び沈黙。突然老人が、「ヒック」。しゃっくりがまたはじまる。前と同じリズムで「ヒック」。「ヒック」。しかし彼の周りの雑音は増幅している。終わりの始まりだ。
23 パブ
ボウリングのレーンの端に老人が立っていて、ボールを転がす。彼はピンを全部倒す。嬉しそうにまわりを見渡すが誰もいない。前にボールを取りに行くが、彼からはもう精気が感じられない。
24 道
オス豚がパブの塀の前を歩いていく。家に帰る途中だが、彼の横には誰もいない。門を通って豚小屋を探し、孤独に泥の中で横たわる。
25 警察
最初は断片的な音が聞こえ、カメラは敷居の先に進む。タイプライターを叩く金属的な音がする。鍵が錠に差し込まれ、鉄製の棒が開きまた閉じ、ドアがきしむ。廊下を進んでいくと音が大きくなる。半分空いたドアから二、三人が休日のようにくつろいでいるのが見える。
養蜂家の息子の警官は、カメラを持って部屋の中に入ってくる。苦悩の表情で自分の机に着く。タイプライターに紙を挿入するが、タイプしようとしない。鍵束を取ってきて、引き出しの鍵を開ける。そこから写真を取りだし、注意深くそれを見る。そして水を注ぎ、飲んでからまた考え出す。彼は歩き回りはじめ、窓から灰色の空を見上げる。外では郵便配達夫が中年女性にお金を渡している。警官はそれを見つめ考えている。配達夫、女性、お金を見比べる。そこで彼は帽子を手に取り、出ていく。
26 ワイン貯蔵庫
養蜂家の妻がほうきを使って蜂の巣を落そうとしている。彼女は空のバケツを持っている。彼女はイライラしている。雑な動作。彼女はこういう作業に慣れていないのだ。けど彼女は急いでいる。
彼女は大きな樽からワインをヒョウタンに入れている。それをバケツに注ぎ、満タンになるとそれをブドウ畑に持っていって、地面に流す。急ぐあまり失敗する。液体が口に飛んできて、彼女はくしゃみし、いまいましげにつばを吐く。貯蔵庫で一行程終えようとしたとき、彼女の息子が背後のドアのところに現われる。彼女は気配を感じて振り向き、空虚に自分の息子を見つめる。彼女は絶望のあまり動けず、耳のなかで血が流れるの音をただ聞いているだけだ。ヒョウタンの中身は地面に流れ出ている。警官も動けないまま見つめ返す。彼の目には絶望と悲しみが宿っている。しばらく二人は見つめあう。何も言うことはない。二人とも全て理解しているのだ。
27 公民館
警官は公民館へまっすぐ向かう。婚礼のパーティーがそこで行われている。若いカップルは既に病的に見える。彼女は若いが冷たい感じで、年上の彼は酔っぱらって、陽気で、金持ちの家の子だ。結婚式は数時間前に行われた。客はみんな酔っていて、赤い顔や鼻がそこら中に見え、楽しげな声がする。テーブルの上には食べ物の残り。まだ食べているものもいるが、多くのものは今や酒を飲んでいたり、タバコを吸ったり、千鳥足で立ち上がったり壁にもたれたりしながらおしゃべりをしている。煙はもうもうとし騒音は相当なものだ。宴の途中で村の女合唱隊が金切り声で歌を歌う。「世界の終わりまであと一日」。彼女らは実は黒い服を着た未亡人たちだ。その中には民族衣装を着た若い娘がたった2、3人しかいない。その中の一人が前に出てきて素晴らしい民謡を歌う。「私は一人。孤児になった」。
警官はパーティの中たった一人だ。彼は孤独で、何も目や耳に入らないようだ。誰かに押しのけられたり、知り合いが彼にあいさつしても気付かない。彼の頭のなかで、物語は整理され、結論づけられたのだ。
28 チェクリックおじいさんの家
おなじみの家。夜明けだ。煙突からオレンジ色の火花がのぞく。ベンチは空だ。しゃっくりは家の中から聞こえる。「ヒック」。その音は道に響き渡る。チェクリックおじいさんは寝る前に少しチターを弾いてからベッドに潜り込み、電気を消す。少しずつ、雨が降り始める。最初は彼のしゃっくりの音の背景に聞こえているだけだが、夜の雨がその音をかき消し、その音はアスファルトに打ちつける拍手のように激しくなる。
終わり
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