ナイトレイト・キス

Nitrate Kisses

■監督・脚本・撮影・編集:バーバラ・ハマー
■音楽:スタシュ・レコード■録音:バーバラ・ハマー■制作:バーバラ・ハマー
アメリカ/1992/モノクロ/16mm/1時間7分
■日本語字幕:溝口彰子+掛札悠子+西村美須寿
■1993年ベルリン映画祭北極熊賞(ドイツ)、マドリッド女性監督映画祭ベスト・ドキュメンタリー賞(スペイン)、1992年トロント映画祭(カナダ)、92年ワシントンゲイ&レズビアン映画祭(アメリカ)、93年サンダンス映画祭(アメリカ)、'93年シドニー映画祭(ニュージーランド)、94年香港レズ&ゲイ映画祭、、95年山形国際ドキュメンタリー映画祭での審査委員長としての特別上映、96年東京レズビアン&ゲイ映画祭

●歴史の表面から抑圧され、影に隠れていた同性愛者の文化・政治史をめぐる映画的瞑想。レズ・ゲイ・カルチャーの失われた痕跡を探索するためにフィルムの乳剤面は侵食される。忘れられた人々についての禁じられた不透明な歴史が、現代のゲイやレズビアンの4つのカップルの愛の光景の背景に映しだされる。アメリカ最初のゲイ映画『ソドムの運命』(1933年、ジェームズ・シブレイ・ワトソン、メルヴィル・ウェーバー監督)と1930年代のドイツの演劇や記録映画など歴史的な映像が多層に織り込まれ、支配的なへテロセクシャルによるイデオロギーの抑圧、ゲイとレズビアンの文化の抵抗を強調する。また、30年代のアメリカ各地や、ナチス支配下で強制収容所を体験した同性愛者たちが語る声に乗せて、この華麗な映像の本流が、性をめぐる価値観の見直しを観るものに迫る。
●この作品は95年山形国際ドキュメンタリー映画祭にコンペ部門の審査委員長として来日した際に映画祭で特別上映され、その後96年東京レズビアン&ゲイ映画祭の東京会場と大阪会場でプレミア上映され大きな話題を呼んだ。

バーバラ・ハマー自身による『ナイトレイト・キス』解説
『ナイトレイト・キス』は私自身が撮影し、記録したものである。映像と音も私が編集した。自らライティングし、セットの準備をし、古いフィルムを見つけだして再撮影(フィルムを素材にして撮影する)による視覚的な効果を施した。ヨーロッパとアメリカでロケをして、自分たちの人生を語る男性たち、女性たちを記録した。映画の構成を考えたり、映像から音へ、または音から映像へという編集作業をしながら、半年間小さな間借りの編集室で過ごした。そして、いったん編集を終えてからも、新たに撮影して加えたり、音を録り直したりもした。あるインタビユーのおかげで、スタッシユ・レコードから出ている「AC/DC ブルース、ゲイ・ジャズ」という復刻盤の存在を知り、ここに収録されている、心のこもった何の束縛もない音楽をサントラの中に使うことを許された。
脚本は一切なかった。あったのはひたすら撮りたい欲求。抑圧され辺境に追いやられた歴史への解答を探り出したいという気持ちである。その歴史の一部を構成しているのは、実は私の歴史であるということ。つまり私が映画制作で費やした年月や、私の名前で作った映画の歴史でもある。私を忘れ去ろうとしていた歴史への解答。
何人かの哲学者の著作はとても役立った。ジェフリー・ウィークスと彼の著作「反自然、歴史についてのエッセイ、性とアイデンティティー」、ミッシェル・フーコの「性の歴史・第1巻」、ベンヤミンの「イルミネーション」に収められている「歴史の哲学」などである。
今回、多くのレズビアンやゲイたちの世話になった。彼ら自身の撮影の許可ととに個人的な体験を記録させてくれた。ミユラック通りにある旧西ベルリンのレズバーや、彼らの保養キャンプに行くようにと勧めてくれた。ヒトラーの隠れ家跡の発見も手伝ってくれたし、自分たちのアパートや部屋を提供してくれた。パリ、ハンブルグ、ベルリンを歩き回って白黒の8ミリ・フィルム探しを手伝ってくれたし(これは容易な作業ではなかった)、カメラやテープレコーダーを貸してくれる人物に会わせてくれたりしたのだった。ある映写技師は、何年もかかって収集してきた古いドイツの物語や記録のスクラップを提供してくれた。献身的な愛すべき私のパートナーは、細かな気配りで暖かい家庭生活を与えてくれた。私は彼女のためにも、この映画をより発展させるための意欲をかき立てることができたのである。

『ナイトレイト・キス』評
モノローグとセックスを媒介とした過去と現在の交感。ここでは観客は目を伏せることが許されない。……B・ルビー・リッチ「ポップ・カチャー・クリティック」

彼らの声はやがて闇の歴史を呼び覚ます魔法の呪文となってリリカルに響き渡る。…… ローレンス・チュア「アート・フォーラム」

レズビアンとゲイたちの忘れ去られた歴史に対する主体的な瞑想。…… ヴィンセント・キャンビー「ニューヨーク・タイムズ」

強烈! バーバラ・ハマー、わき起こるレズビアン映画の潮流の震源地。……ジョン・アンダーソン「ニューヨーク・ニュースデイ」


サンクタス

Sanctus

■監督・脚本・撮影・編集:バーバラ・ハマー
■音楽:ニール・ロルニック/制作:バーバラ・ハマー/アメリカ/1990/カラー&モノクロ/16mm/19分
■ティルライド映画祭、サンフランシスコ国際映画祭で受賞
■ニューヨーク近代美術館、及びブリュッセル国立映画図書館(ベルギー)永久所蔵作品

●この映画は『アッシャー家の崩壊』(1929)のジェームズ・シブレイ・ワトソン博士とそのチームが撮影した人体のX線写真を素材としている。この貴重な科学フィルムの中で動く骸骨は、変容し、増殖し、色と光を得ていく。身体がもつ生と死のユーモラスでミステリアスな姿をあらわにする瞑想的な作品。

『サンクタス』評
人間存在とフィルムがともに持つはかなさへと向かう軌跡。あるいは、さらけ出された生のイメージ。身体という宇宙を舞台に繰り広げられる祝典。X線フィルムの骸骨たちが19分間、ハマーの呪文とともによみがえる。……ジョン・ガーテンバーグ/ニューヨーク近代美術館


バーバラ・ハマー バイオグラフィ

Barbara Hammer

1939年、アメリカ、ハリウッド生まれ。
60年代後半から8ミリ・フィルムで映画を作り始める。ドキュメンタリーと実験映画にまたがる映画・ビデオを多数発表する。現代アメリカを代表するレズビアン映画/ビデオ・アクティヴィストのひとり。1992年に初の長編ドキュメンタリー『ナイトレイト・キス』を発表、スタイリスティックな白黒映像でアメリカにおける同性愛の社会・文化史を検証してゆく本作は、批評的に絶賛を集めるとともに劇場公開でも成功を収め、93年ベルリン国際映画祭北極熊賞、マドリッド女性監督映画祭ベスト・ドキュメンタリ−賞など、世界各地で多数の賞を獲得した。95年山形国際ドキュメンタリー映画祭にコンペ部門の審査委員長として来日。現在までに51本の映画作品と25本のビデオ作品を制作。最新作で自伝的な作品『優しいフィクション』が96年ベルリン国際映画祭で話題を呼ぶ。

主要監督作品
Schizy 1968/8mm/15分
I was/I am 1973/16mm/7.5分
Dyketactics 1974/16mm/4分
Woman I love 1976/16mm/27分
Double Strength 1978/16mm/16分
Our Trip 1980-91/16mm/4分
Synch Touch 1980-81/16mm/12分
Arequipa 1981/16mm/12分
Pond and Waterfall 1982/16mm/15分
光学的神話 Optic Nerve 脚本・撮影・編集:バーバラ・ハマー/音楽:ヘレン・トリントン/1985/16mm/16分
No No Nooky T.V. 1987/16mm/12分
危機 Endangered 脚本・撮影・編集:バーバラ・ハマー/音楽:ヘレン・トリントン/1988/16mm/18分
静止点 Still Point 脚本・撮影・編集:バーバラ・ハマー/制作:バーバラ・ハマー/1989/16mm/9分
サンクタス Sanctus 1990/16mm/19分
生命の記号 Vital Signs 脚本・撮影・編集:バーバラ・ハマー/1991/16mm/9分
ナイトレイト・キス Nitrate Kisses 1992/16mm/67分
Out in South Africa 1994/ビデオ
優しいフィクション Tender Fictions 1995/16mm/67分



ビデオ・データ

■HiFi-MONO/VHS■販売専用 ■定価=税抜7,500円 ■商品番号=DAV96044

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