井上陽水・みうらじゅんトークショー
(2005.12.13 at シアター・イメージフォーラム)
ー井上
今日はお寒いなか、皆さんありがとうございます。よろしくおねがいします。
ーみうら
ほんとうにどうも、うちのボブのためにかけつけていただいて。
皆さんの中にももうご覧になっている方もいらっしゃるかもしれませんが、大画面で見るのはいいですねえ。
ー井上
冒頭から固い話をするのもなんですが・・・すごいです。
ーみうら
(笑)3時間20分ですもんね。途中に休憩を挟むという『七人の侍』形式で上映されるんですよね。最近なかなかないですよ。
ー井上
音楽関係のドキュメンタリーというのはいろいろあるけれども、
ディランの場合、何が違うのかと考えてみると・・・
アメリカという経済・軍事・政治的に大きな国を背景にしつつ音楽をやっているというのがね。
ジョン・レノンのように平和について歌うのも大切だけど、よりリアリティがありますね。
ーみうら
もうストーンズ、ディラン、ジョン・レノンだけでいいんじゃないですか。あとは余暇で。
ー井上
この映画の中での一つの見所は、テレビ番組でほめられたときのディランの反応ですね。絶賛されたときの居心地のわるそうな態度。
ーみうら
そうですね、ぜひものまねしてください。
それと、一つ新しいことを始めると必ず非難される、ということがよくわかりますね。
ー井上
ポイントはいくつかあると思いますけど、公民権運動だったり戦争だったり、そういうことを背景としてオピニオン・リーダーのような存在になったときにまわりの期待と違うことをするのはとても大変ですよ。簡単に見えるけど。
ーみうら
そうですね。あるイメージをつけられても、自分の信念を貫いて結果的にブーイングされるという。
ー井上
あのブーイングは、噂には聞いていましたけど実際に映像をみたら凄かったですね。僕らみたいにお米を食べてる人たちとは違って、やっぱり肉を食べてる獣系の人たちのブーイングは違うな、と思いました。
それで、ブーイングされた後に歌う「ひとりぼっちのバラード」や、2・3曲でひきあげて戻ってきて歌った「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ・ベイビー・ブルー」とか、できすぎてるというか、本当に上手なんですよね。
ーみうら
できすぎてますよ、運のいい人です。
ーみうら
この映画をみると、ディランにとって女性の影響が大きいということがよくわかりました。
「フリーホイーリン・ボブ・ディラン」のジャケットでもガールフレンドのスージー・ロトロさんと写ったりして、ひとりフライデー状態ですもんね。(笑)神様といわれているけれどやっていることの一つ一つは生々しくてすごく人間ぽい。
ー井上
とても人間らしく生きている感じですね。
ーみうら
記者会見の映像でもバンバンそういうところが出てますね。
ー井上
あれをみるとインタビュアーの鈍感さとか辛辣さ、まぬけさがよくわかって大変だっただろうな、と思いますね。
ーみうら
それをどう逃げるかも面白かったです。音楽のみならず、全てが面白い。
ーみうら
スコセッシは『ラスト・ワルツ』の最後のシーンでディランを撮ったときからディランの自伝映画、という構想を持っていたんですよね。
ー井上
やっぱり上手いですね。資料のピックアップも、編集も。
ーみうら
ジョーン・バエズは最終的にはちょっと腹をたててましたね。
自分はステージによんであげたのに、イギリスツアーでは同行しただけで一度もステージにあげなかったということで。
ー井上
それに対して現在のディランが「愚かだったかもしれないけど愚かじゃなきゃ恋なんてしない」と言っていましたね。また、上手いことを言って。
ーみうら
チョイ不良(ワル)ですね。(笑)
ー井上
「ハイウェイ61」のジャケットでもかっこいいですよね。
TriumphのバイクのT シャツにジャケットで。記者会見でそのT シャツにはどういう意味があるのかと問いつめる学生風の男がいるんですが、そこはぜひ見てほしいですね。
ーみうら
ディランはファッションでも影響が大きい。
今若い人が持つロックのイメージはすべてこの人から始まってますからね。プロモビデオを撮ったのもブートレグが出たのもディランが世界初ですからね。でも、次にプロモを撮ったのは陽水さんなんですよね。世界で2番目に。
ー井上
そう。世界で2番目。本当か分からないけど。
でも、これから見る皆さんは楽しみですね。私も3回見ました。
ーみうら
僕も、『アイデンアンドティティ』が映画化されてディランさんからお許しが出て、最後に「ライク・ア・ローリングストーン」を使ったんですが、今回スコセッシにちょっとパクられたな、と思いました。(笑)けど、でもかっこいいのでぜひみてください。
ー井上
あなたは本人に会ってるんですよね。何か息子に取り入ったとかで(笑)。滅多にないことですよ。
ーみうら
息子さんを京都の仏像案内に連れて行ったんです。三十三間堂の前で、「ジャスト・ライク『ウィー・アー・ザ・ワールド』」と言ったら大爆笑で。「この人に京都で仏像を見せてもらって、うどんというヌードルを食べさせてもらったよ」と紹介していただいて。「ありがとう」っていってくれて。ディランのハーフミラーのサングラスに僕の姿が浮かんでいましたよ。
ー井上
それは、お墓まで持っていかなきゃいけない大変な話ですね。(笑)
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