本作の舞台、チアトゥラはジョージア共和国西にある町。かつては世界で消費されるマンガンの50%を産出し、1万人もの労働者を雇用する鉱山だった。その黄金時代はソビエト連邦解体と同時に終焉をむかえ、経済は冷え込み、人口が激減。過疎化が進み、現在町はゴーストタウンと化している。
監督のラティ・オネリはジョージアのトビリシ出身。2014年のプロデュース・共同編集作品『Invisible Spaces』がカンヌ国際映画祭短編部門にノミネートされ、高い評価を得た。長編監督デビューとなる『陽のあたる町』で、半ば朽ち果てた町の惨憺たる風景を、圧倒的な映像美で活写。まるで悪夢のような場所で、懸命に、そして慎ましく生きる人々の暮らしと、劣悪な環境で労働を強いられる鉱夫たちの日常を、鋭くも温かい眼差しでとらえた。
音楽教師のズラブは家族を養うため、放棄された町の建造物を破壊し、鉄屑を売りはじめた。崩落事故で仲間を亡くしたばかりのアルチルは、自らの情熱である演劇に身を捧げるべきか、危険を顧みず鉱夫として働き稼ぐべきかの選択に迷っている。痩せ細ったアスリート、マリアムとイリナは町の厳しい財政状況で満足な援助を得られないなか、オリンピックを目指し走り続ける。置き去りにされた町で生きる人々の憂いに沈んだ思いを、静謐な風景の中に美しく描写した傑作ドキュメンタリーだ。
ジョージアのチアトゥラとは

チアトゥラの町は、1879年にジョージアの詩人アカキ・ツェレテリや貴族によって創設された。20世紀初頭には世界で消費される50%のマンガンを産出し、産業の中心地へと変貌した。やがてソヴィエト連邦が構成されると、チアトゥラの町は理想郷、そして未来都市の象徴として巨額の投資が行われた。劇場、大学、コンサートホール、スタジアム、公園が建設され、同時に世界初かつ最大のケーブルカー交通網が整備された。しかしソヴィエト連邦の解体、そしてマンガンが枯渇すると経済も衰退の一途をたどり、人口は激減。1989年にはおよそ3万人が暮らしていたが、2008年の人口は1万9千人ほどまで落ち込んでいる。