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2004/4/11
ランドスケープ・スーサイド
A Real Killer Talking?
広大なアメリカ国土の2つの地点で起こったセンセーショナルな殺人事件。風景映像の魔術師ジェームス・ベニングが特異な手法で「風景の犯罪」を描いたニュー・リアリズム・シネマである。
映画の前半に登場する殺害者はカリフォルニア州オリンダに住む15歳の少女、バーナード・プロッティ。自分より人気のあるクラスメートの少女をナイフで刺し殺したこの事件は、当時(1984年)こぞってアメリカのマスコミにとりあげられた。後半の第2の事件は、アメリカ犯罪史上最も凶悪な猟奇殺人事件として知られるウィスコンシン州プレインフィールドで1957年に発覚した農夫エドワード・ゲインの犯罪である。強度のマザコンであったゲインは、3年間の間に15人(主に女性)を殺害し人体で調度品をこしらえていた(ゲインはトビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』のモデルとなった)。カメラは緑に囲まれたカリフォルニアの住宅街や雪に埋もれたウィスコンシンの田舎の風景を、まるで現場検証に立ち合ったかのような形で映し出す。あるいは、殺人者たちが今では見ることのできない<風景>として映ることもあるだろう。役者の演技はあまりにも迫真に満ちていて、実際の人物が我々に話しかけているように見える。フィクションか、現実か、その両極を思考が駆け巡る。
監督のジェームス・ベニングがこれまで制作したアメリカの風景ばかりの映画は全て、見ることを強制し観客の想像力を駆り立ててきた。一見単純に見える構成も、実は綿密な計算のもとに1カットの長さを決定し、過去と現在のシークエンスをパズルの様に組み立ててきた。そしてここに特筆すべきことは、本編にも見られるように観客の瞬きを想定した黒味(一瞬のブランク)がこの作家のどの映画にも存在することである。「今映画を見ているのは、あなた自身ですよ」とでもいうように。
「ジェームス・ベニングは70年代から独自の風景論を展開させているが、そのスタティックな風景を重ねていく手法はジム・ジャームッシュやヴィム・ヴェンダースらに先行している。」
(キャサリン・ディエックマン/ヴィレッジ・ヴォイス 1986年11月)

ジェームス・ベニング●1942年、アメリカ・ウィスコンシン州ミルウォーキー生まれ。ウィスコンシン大学で映画を学ぶ以前から、インディペンデントの映画作家として活動を始め、当初は短篇映画、その後は長めの実験的な作品を手がけるようになる。78年から85年にかけては、数多くのプロジェクション作品やコンピュータ・インスタレーションも制作している。主な作品に、『8 1/2×11』(74)、『11×14』(76、IFF94で上映)、『カリフォルニア・トリロジー』(99-01, IFF2002で上映) など。
ランドスケープ・スーサイド
受付
当日900円/会員600円

■上映作品
ランドスケープ・スーサイド 16ミリ/95分/1986
監督・撮影・編集/ジェームス・ベニング
出演/ロンダ・ベル(バーナテッド・プロッティ役)
エリオン・サッチャー(エドワード・ゲイン役)