イントロダクション
本プログラムは最新作『13』でイメージフォーラム・フェスティバル2020大賞を受賞した磯部真也の初めての個展である。磯部真也は東京造形大学、同大学院、イメージフォーラム映像研究所で映像制作を学び、カメラマンとして映像制作の現場に関わりつつ自身の作品を作り続けている。
制作に数年を要することもある磯部作品の特徴はコマ撮り(タイムラプス)を使って長期間の撮影を行い、時間をダイナミックに変容させるところにあるが、ビジュアル的な実験だけが狙いなのではない。風景の中に積み重ねられた時間を表現することで、言葉を使わずに、写ってすらいない「登場人物」のドラマを繊細に描き出すところに磯部作品の独自性がある。つい劇映画と実験映画の融合ということを考えてしまうが、そこには単純な1+1にとどまらない新たな映像ジャンルの可能性がうかがえる。(イメージフォーラム 門脇健路)
上映作品(4作品/48分)
dance デジタル/5分/2009
EDEN 16ミリ/15分/2011
For rest 16ミリ/17分/2017
13 デジタル/11分/2020
※上映後には磯部真也によるティーチインあり。
作品解説
dance
記憶についての映画である。しかし人間が持つ記憶ではない。場所に宿る記憶、堆積した時間とも言える。ありふれたテーマだが、本来目に見えないこれらの観念をイメージとして表現する事を試みた。映画を撮ること自体が、失われていく時間を捕らえる行為でもあると思ったからだ。一人の女の生活をモチーフにした。堆積した日常は部屋にあり続ける。(磯部真也)
EDEN
岩手県八幡平市にある巨大廃墟、旧松尾鉱山跡。かつてその場所は「雲上の楽園」と呼ばれ、一万人の暮らしがあった。十数棟の鉄筋コンクリートの廃墟はゆっくりと朽ち果てながら、それでも未だあり続けている。この作品ではその場所にある無常と永遠という相反する時間を映像化しようと試みました。(磯部真也)
<baca-ja 2010 佳作>
<イメージフォーラム・フェスティバル 2011優秀賞、福岡・横浜会場観客賞>
<100$Film Festival 2012 観客賞>
<Canada International Film Festival 2012 ライジングスターアワード>
<FLEX Florida Experimental Film/Video Festival 2013 フィルム(long)部門第3位>
For rest
森(Forest)の樹木の根元に置かれた食卓にご馳走が並ぶ。16ミリフィルムのタイムラプスで食物が次第に腐る。この時間の流れを見つめながら、観客の想像力は、死(rest)を含むさまざまなイメージを触発されて物語を紡ぐが、やがて食卓が草の山となって新たな芽が生え始める中、時間の神秘さに打ち震えるとともに再生の希望を抱くようになる。(イメージフォーラム・フェスティバル2017カタログより)
<Experimental, Dance & Music Film Festival 2018 ベストフィルム>
<2018 Athens International Film and Video Festival 実験映画部門大賞>
13
13秒間隔のインターバル撮影、多重露光、天体の定点観測、16ミリフィルム、そして30代の半分を占める5年の時間。21世紀のヘリオグラフィーという、美しい時代錯誤だというべきか。歴史となった光の詩学を顕在化する、孤独な太陽礼拝というべきか。意識を失う瞬間と意識が戻る瞬間が交差するような、作品中盤の色と音が忘れられない。(馬定延/イメージフォーラム・フェスティバル2020カタログより)
<イメージフォーラム・フェスティバル 2020 東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション大賞、東京会場観客賞>
磯部真也
1982年横浜市出身。2001年東京造形大学入学。専攻は劇映画であったが、授業で実験映画にも触れる。制作においてイメージとテキストの関係に苦悩しつつも、何も掴めぬまま同大学院卒業。その後、制作のヒントを実験映画に求め、イメージフォーラム映像研究所へ入所。卒業制作の『EDEN』がイメージフォーラム・フェスティバルをはじめ、国内外のいくつかの映画祭で受賞。その後、自分の追求する映像表現を模索し続けながら作品を制作している。